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2020.10.23

6次元・ナカムラクニオ「世界をつなぐ『金継ぎ』という魔法」

ロサンゼルスで開催した金継ぎワークショップ
「不完全」を愛でる

金継きんつぎは「不完全」という名の完璧さをでる芸術だ。壊れた陶磁器を漆で直し、金で飾る日本の伝統的な修理方法として近年、各国で注目されている。

2019年末には、米映画「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」で、主人公であるカイロ・レンのマスクが金継ぎされていたことも大きな話題になった。

かつては、茶道具を扱う専門家や、骨董収集が趣味の男性を中心に知られていたが、数年前から丁寧な暮らしを求める若い女性たちの間でも流行するようになった。それが、いつの間にか、海外でも Zen(禅)などと並ぶ日本文化の象徴的存在となったのだ。

金継ぎされた黒唐津茶碗(17世紀)

金継ぎは、室町時代に漆器の技術を応用して始められたと言われている。茶道とも関わりが深い。茶人たちはかつて 、わざと茶碗ちゃわんを割って、金継ぎすることもあった。傷を「美しい自然」に見立てる粋な遊び。それが金継ぎなのだ。器のひび割れは、ドラマチックな風景画に見える。傷に「金」が装飾されると、暗闇に稲妻が光り、黄金色の川が大地を潤すような景色となる。茶人たちは、この不完全さの中にこそ、美しさがあると考えたのだ。そして、この技術は壊れた茶碗を直すだけでなく、人と人を結びつける魔法として、現代へと受け継がれた。

東日本大震災後、修復依頼が急増

私自身も、金継ぎで人生が修復された。長い間、テレビ番組のディレクターとして働き、疲れ果てていた時に出会ったのが金継ぎだった。体力的、精神的にもボロボロだったが、大切な器を直すことで自分が治癒されていくような気がした。元々、仕事で古美術品を鑑定することが多かったので、技術について学ぶ機会は多かったが、勉強のために日本とアジア各国の漆器の産地、工房を訪ねてまわった。

2008年末には、会社を辞め、「6次元」というブックカフェを作り、金継ぎワークショップを始めた。そして、2011年3月11日、東日本大震災が起きた。この時から、驚くほど、器を直したいという依頼が増えた。同時に、修復することがセラピーとして機能することにも気付かされた。その後も、金継ぎの依頼は増え続け、資生堂の海外市場向けコマーシャルに器を提供したり、KINTSUGI PIECES IN HARMONY という企業コマーシャルを制作し、国際的な広告賞も受賞した。

そうやって、自分自身が少しずつ修復されていったことは、とても興味深い体験だった。次第に海外からも講師として招かれるようになった。かつては「NHKワールド」で日本文化を海外に発信する番組を長く担当していたので、その時の経験も役に立った。

世界で出版された金継ぎに関する書籍やCD
各国で「KINTSUGI 現象」

5年前に、驚くことがあった。米国でロックバンド「デス・キャブ・フォー・ キューティー」が「KINTSUGI」というアルバムを発表し、話題になったのだ。イタリアでは、金継ぎをテーマとする恋愛小説やコマーシャルが作られ、接着剤も「キンツグルー」(Kintsuglue) という名で販売されるほど人気が急上昇した。フランスでは、ファッションブランド「KENZO」の故・高田賢三さんが金継ぎをモチーフにした新ブランドを設立。タイでは、日系米国人シェフの懐石料理店「KINTSUGI」が有名になり、フィリピンでは「KINTSUGI」という恋愛映画が製作された。

日本では、映画「DESTINY 鎌倉ものがたり」や、故・三浦春馬さん主演のテレビドラマ「おカネの切れ目が恋のはじまり」で、金継ぎが清貧と再生の象徴として登場した。私自身も、いつか出したいと思っていた修復と陶磁器に関する書籍『金継ぎ手帖』と『古美術手帖』を出版することができた。これらの本は、中国や韓国でも翻訳・出版され、海外からの参加者がますます増えていった。世界で、同時多発的に「金継ぎ現象」が起きたのだ。

教会で開催した金継ぎワークショップ
マコト・フジムラさんとの出会い

3年ほど前、米国に住む日系画家のマコト・フジムラさんがやってきた。最初は映画を撮影したいということだったが、実際に話してみると、実に素晴らしい芸術家だった。Culture Care(カルチャー・ケア)という文化と癒やしがコンセプトの活動を続けている画家で、完成したドキュメンタリー映画「KINTSUGI」は、サンダンス国際映画祭でも上映された。こうしたことがきっかけとなって、フジムラさんと共に金継ぎの学校「キンツギ・アカデミー」をロサンゼルスに設立することになったのだ。不思議なことがあるものだ。もしかすると、金継ぎで世界平和に役立てるかもしれない。そう考えるようになった。

パンデミックが起きている今だからこそ、世界の人々が、自らの傷をいたわるような気持ちで、金継ぎを体験できたらいいと願っている。器を治療することが、人と人をつなげ、新しい芸術表現の流れを作り出すのではないかとも思っている。金継ぎは、何かを再生するという儀式的な行為によって、精神的なつながりを修復したり、自分を治癒したりすることなのだと思う。

金継ぎの本質は「傷ついた自分」を受け入れる技術なのだ。

(写真はナカムラクニオさん提供)

ナカムラクニオ

プロフィール

「6次元」主宰

ナカムラクニオ

1971年、東京生まれ。東京・荻窪「6次元」主宰。映像ディレクター、美術家としても活動を続け、山形ビエンナーレなどに参加。著書は『金継ぎ手帖』『古美術手帖』『チャートで読み解く美術史入門』『モチーフで読み解く美術史入門』『描いてわかる西洋絵画の教科書』(いずれも玄光社)など多数。世界に日本の文化を発信する活動を続け、米国在住の日本画家マコト・フジムラと共同で金継ぎの学校 Kintsugi Academy をロサンゼルスに設立。

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