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仁和寺金堂には本尊「阿弥陀三尊像」(中央)などが安置されている=川崎公太撮影

2023.9.6

【門跡寺院 格式と継承】仁和寺(京都)

門跡寺院は、皇室、公家と深い関わりを持ち、支援を受けながら、文化継承の役割を担ってきた。戦乱、明治維新による存続の危機を乗り越えて、さらに歴史と独自の文化を将来へ伝えるべく、新たな歩みを始めている。仁和寺にんなじはゆかりの深い焼き物など工芸品の振興を支援し、大覚寺だいかくじは大学を運営し次世代のアーティストを育てる。皇統につながる青蓮院しょうれんいん・東伏見慈晃門主、聖徳太子の心を伝える中宮寺ちゅうぐうじ・日野西光尊門跡には、門跡寺院が守り伝えてきた伝統と歴史、これからを聞いた。

 
 

「朝廷、文化人サロン」の役割

 

仁和寺(京都市右京区)は、数ある京都の寺院の中でも特別な歴史を持つ寺院だ。888年(仁和4年)、宇多天皇(867~931年)が創建し、弘法大師を尊崇したことから、譲位後、みずから出家して門跡を務めた。それ以来明治維新を迎える30世まで皇族を門跡に迎えている。

「仁和寺は皇族が歴代門跡に就任することによって、歴史上の人物、朝廷、文化人と緊密な関係を築き、文化サロンとしての役割を担ってきた」と第51世・瀬川大秀門跡(76)は説明する。

仁和寺の瀬川大秀門跡

同寺は国宝12件、重要文化財48件、約10万点に及ぶ歴史資料を所有するほか、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産にも登録されている。中心となる国宝の金堂に安置する本尊の「阿弥陀三尊像」、壁画の「五大明王像」は、ふだんは非公開だ。

寺を構成する建物や庭、様々な宝物と文化財は切り離せない。次世代へ継承していくためには長期的な視点に立った調査、研究、修理が必要だ。財源、修理技術を持つ職人、材料の確保が大きな課題となっている。

仁和寺観音堂の壁画

同寺は文化財を未来に伝えるための新たな取り組みに次々と着手している。

重要文化財の観音堂を約370年ぶりに修理した際は、最先端のデジタル技術を駆使して堂内の壁画を記録・保存した。このデータを使って印刷した壁画を2018年に東京国立博物館で展示。鮮明な画像が大きな話題を呼んだ。

ゆかりの深い工芸品の作家支援にも前向きだ。21年から始めた「御室おむろ芸術祭」は、美術工芸作家たちに展示スペースとして庭園や書院などを提供する試みだ。

今年2月に「伝統工芸推進委員会」を設置し、工芸作家の作品を買い上げて、支援する取り組みを始めた。5月には「伝統工芸の日」を開催し、参拝客に伝統工芸品を紹介した。

仁和寺の金堂を飾る菊の御紋

1泊100万円の宿泊施設「松林庵」は、宿泊客に日本文化の深さを体験してもらい、収益を文化財修理や子ども支援に活用する仕組みだ。

瀬川門跡は「先人が文化財を継承してくれたおかげで今の私たちがある。今度は、伝統文化や現代アートを、何十年、何百年先の未来へ継承していくことが私たちの使命。仁和寺は次世代への文化の懸け橋となるよう努めていきたい」と語った。

「伝統工芸の日」匠の技身近に
 人間国宝と瀬川門跡の対談も

〔2023年〕5月に仁和寺で開催した「伝統工芸の日」には、一線で活躍する作家の作品が並んだ。

御殿の白書院しろしょいんに、日本工芸会正会員の陶芸作家・猪飼祐一さん、岡田優さん、加藤清和さん、清水一二さん、樋口邦春さん、本多亜弥さんの6人による酒器や皿などを並べ、伝統的なたくみの技を生かしつつ、現代に生み出された作品の数々を、参拝客らに身近に感じてもらった。

白書院に並んだ工芸作品。襖絵も美しさを添える

宸殿しんでんでは、重要無形文化財(友禅)保持者(いわゆる人間国宝)の森口邦彦さん(82)と瀬川大秀門跡による対談も行われた。儀式や式典の際に使われ、御殿の中で中心となる建物で、欄間などの彫刻や、日本画家の原在泉ざいせんが描いたふすま絵が美しい。

瀬川門跡は「創建以来、仁和寺には密教寺院と御所文化の融合で花開いた文化がある」と歴史を振り返り、森口さんはフランスへの留学経験をふまえ「フランスの人間国宝制度は、給付金を支給する一方、人間国宝に後継者を育成する責務も負わせている」と継承の重要性を説いた。


対談が行われた宸殿は、2019年以来、将棋の竜王戦の開催地としても知られる。5年目となる今年は、10月17、18日、七番勝負第2局の会場となる。

(2023年9月3日付 読売新聞朝刊より)

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