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2021.6.9

【魅せられて 十一面観音㊦】能楽×三輪山信仰 私の好きな仏様

彫刻家・籔内佐斗司さん×人間国宝・大倉源次郎さん

対談する籔内佐斗司さん(左)と大倉源次郎さん(東京都港区の銕仙会能楽研修所で)=青山謙太郎撮影

奈良・聖林寺の国宝「十一面観音菩薩立像ぼさつりゅうぞう」。東京国立博物館(東京・上野)で6月22日から始まる特別展「国宝 聖林寺十一面観音―三輪山信仰のみほとけ」に出展され、その究極の美を見せる。

展覧会のタイトルにある「三輪山信仰」は、能楽とも深い関わりがあるという。聖林寺の国宝・十一面観音菩薩立像をこよなく愛する彫刻家で奈良県立美術館長の籔内佐斗司さん(68)と、能楽小鼓方の人間国宝・大倉源次郎さん(63)が、能「三輪」や観音像について語り合った。

国宝 十一面観音菩薩立像(奈良・聖林寺蔵)
彫刻100体 選ぶとしたら欠かせない
やぶうち・さとし 1953年生まれ。2021年3月まで、東京芸術大教授として文化財の保存修復などを指導した

籔内: 人類が作った全彫刻から100体を選ぶとしたら欠かせないと思うほど、この観音様が好きです。プロポーションにお顔立ちなど、あれほど崇高な彫刻は珍しい。保存状態の良さからも、いかに大切にされてきたかがわかります。

大倉: 私も時折、お寺に立ち寄って拝観します。観音は「音をる」と書く。お堂の中は実際は静かですが、独特の音といいますか、幸せを全身で感じられるような心地がします。私は長年、鼓でいい音を出す稽古をしてきましたが、これからも頑張りなさいよ、と励まされる気がします。

籔内: 源次郎さんは伝統芸能を、私は彫刻の古典技法を研究し、興味の対象が過去へ向きがちですが、過去を知ると今の我々の状態がわかり、これから先を考えることにもつながる。

大倉: 観音様に向き合うと、過去、現在、未来がつながっていくことを実感できます。

籔内: 桜井の地は、能楽発祥の地と言われているそうですね。

大倉: この地を流れる寺川の上流から宝生、金春、観世、金剛の大和四座の座元がありました。能楽は、大和に伝わる伝説を全国へ発信しようと作られた芸能とも言われています。

独特の音、幸せを全身で感じる心地がする
おおくら・げんじろう 1957年生まれ。能楽小鼓方大倉流宗家。2017年、重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定

籔内: この地を舞台にした「三輪」もありますね。

大倉: 三輪に住む僧の元に里の女が訪れます。僧が女に衣を貸して帰すと、三輪山の神杉の枝にその衣が掛かっていた。そこに神様が乗り移った巫女みこが現れ、三輪に伝わる説話を語り、天照大神の岩戸隠れの様子を舞って見せる――という演目です。

21年4月に三輪山を拝む大神神社で上演した「三輪」(左から2人目が大倉さん、大神神社提供)

籔内: なぜ岩戸隠れの要素があるのですか。

大倉: 桜井市の箸墓はしはか古墳の埋葬者と伝わる倭迹迹日やまとととひ百襲姫命ももそひめのみことは卑弥呼のモデルとも言われますが、実際に大和を日食が襲った時に、巫女たちが岩戸開きの神事を学んで実践したという伝説が語り継がれているそうです。

籔内: 能楽は単なる芸能ではなく、日本人の古代の記憶や歴史の記録装置のような役割を果たしてきたとも言えますね。

【三輪山信仰】 

奈良県桜井市の大神おおみわ神社は三輪山をご神体とし、大物主おおものぬしの大神おおかみをまつる。聖林寺の十一面観音は元々大神神社の神宮寺・大御輪寺だいごりんじの本尊だったが、1868年の神仏分離令に伴い、親交の深かった聖林寺に移された。

(2021年6月6日読売新聞から)

2人の対談は展覧会開幕後、公式サイトから動画でご覧いただけます。

特別展公式サイトはこちら

特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ― 三輪山信仰のみほとけ」:東京国立博物館・奈良国立博物館 (yomiuri.co.jp)

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