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2025.8.1

【工芸の郷から】倉吉張子はりこ ― 2人の職人 支える保存会(鳥取県倉吉市)

鳥取県中央部に位置する倉吉市。「山陰の小京都」と称される白壁と赤瓦の街並みの一角にある「はこた人形工房」では、山脇和子さん(61)と牧田能裕よしひろさん(66)が、絵付けをしたり、木型に和紙を貼ったりして張り子人形作りにいそしんでいる。

倉吉張子の制作を進める牧田さん(奥)と山脇さん

倉吉市の工芸品「倉吉張子はりこ」は、約230年前の江戸時代に備後の国(現在の広島県東部)から来た行商人・備後屋治兵衛が、地元の娘をモデルに人形を作ったのが始まりとされている。

木型に古書の和紙を貼り重ねて乾かす▽型を抜き取り、貝殻を細かく砕いた「胡粉ごふん」を塗り重ねて下地にする▽墨や日本絵の具などで彩色をして、ニカワでつや出しをする――というのが大まかな作り方だ。

江戸時代から伝わる倉吉張子。後列中央が「はこた人形」

因幡の白ウサギ、だるま、首振り牛、面など約30種類ある。代表的なものが娘の人形「はこた人形」。「はーこさん」と呼ばれ、かつてはおもちゃや無病息災のお守りとして親しまれた。

職人が備後屋6代目の三好明さん(2015年に86歳で死去)だけになっていた2012年、専業主婦だった山脇さんは、市の後継者募集に応募し、病床の三好さんを訪ねるなどして懸命に学んだ。売れるものを作れるまで約2年かかったという。「やめると言ったら、倉吉張子がなくなるんだなというプレッシャーがあった」。20年には銀行員だった牧田さんが加わり、現在は2人で制作する。

寒暖差や微妙な湿度の違いが出来栄えに大きく影響するため、細心の注意を要する。最も緊張するのは人形の「命」である顔を描き込むときだ。「お客さんに『かわいい』と言ってもらうのが励みになる」と牧田さんは話す。

伝統を守りつつ、新しいことにも取り組んでいる。干支えとにちなんだ起き上がりこぼしを作り始め、毎年1種類ずつ増やしていった。残りは馬と羊のみとなった。昨年はヘビの首振り人形の復活に挑戦した。

後継者探しをしなければならないが、現役世代が専業とするには実入りが心もとない。ニカワの仕入れ先が廃業した。課題はたくさんあるが、支援団体「倉吉はこた人形保存会」(13年設立)の会員約90人の存在は心強い。「『細く長く』というのもありだと思う。後世に伝えるという信念を持ち続けていたい」と、牧田さんは言葉に力を込めた。

7月に入り工房では、来年の干支「うま」に合わせた馬の起き上がりこぼしの制作が始まっている。

(大阪文化部 森田睦)

(2025年7月23日付 読売新聞朝刊より)

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