フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」が、高精細の透かし絵として浮かび上がるランプシェード。わずかに透光性を持つ磁器の厚みを微妙に変えて彫刻するリトファニーという技術で、絵画のような表現が可能となる。
陶磁器の製造を手がける長崎県波佐見町の「びぎん・じゃぱん」には、普通の焼き物工房では見られないようなパソコンや様々な加工機械が並ぶ。
同社の冨永秀樹さん(60)と妻の由架さん(59)が、CGソフトを使って商品の石こう型をデザインしている。陶土を流し込んで陶板を成形する石こう型は、コンピューター制御の加工機を使って制作するため、写真を3Dデータとして高精細の模様に削り出すことができる。また、事前に完成形を3Dで確認して修正できるため、試作によるロスの削減にもつながっている。
秀樹さんの前職は島津製作所(京都市)の半導体のエンジニア。40歳から趣味で陶芸を始め、京都芸術大の通信教育部でデザインを学んだ。「陶芸とエンジニアリングを結びつけたい」とデジタル原型の制作を目指し、51歳で早期退職した。
翌年の2017年に波佐見町に移住し、県窯業技術センターでソフトウェアや切削加工機の使い方を習得。「びぎん・じゃぱん」代表の由架さんと結婚すると、由架さんも有田工業高校デザインコースに聴講生として2年間通い、伝統工芸士の元で絵付けを学んだ。
21年、2人は協力し、高精細な写真画像を刻んだ磁器パネルに光を当てて浮かび上がらせる商品「波佐見焼フォト」を開発。この技術を生かし、昨年7月から「LuCeRa」というブランドを立ち上げてランプシェードや皿などを制作している。
400年以上の歴史がある波佐見焼は、高級品だった磁器を石こう型による大量生産で身近にし、庶民の食卓を彩ってきた。
2人は「波佐見焼は各時代の大衆のニーズに合わせて柔軟に変わってきた。今までにない技術で、どこにもないものを世界に発信したい」と意気込んでいる。
(西部文化部 井上裕介、写真も)
(2024年11月27日付 読売新聞朝刊より)
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