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2024.10.21

【工芸の郷から】美馬和傘 — 竹、和紙、糸、漆 … 和の技と心(徳島県美馬市)

徳島県美馬市脇町の旧城下町は「うだつの町並み」と呼ばれ、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。その一角にある「美馬市伝統工芸体験館 美来工房」では、江戸時代の終わりに始まったといわれる「美馬和傘」作りが行われている。

美馬和傘は、蛇の目傘の中心に付けた派手めの糸飾り(右手前)が特徴だ(徳島県美馬市で)

切り出した竹を割って骨にする。傘を開閉させる「轆轤ろくろ」という部品と短い小骨、それと長い親骨を糸でつなぐ。親骨に和紙を貼り、各部を補強し、折り目を付ける。油引きと天日干しをし、漆を塗る。全て手作業で、完成までに半年ほどかかる。

細身の蛇の目傘は、内側の真ん中を五色の糸で装飾する。「飾りが派手めなのが特徴ですかね」と、「美馬和傘製作集団」代表の住友聡さん(65)が控えめに語る。

親骨に和紙を貼っていく作業

かつて主産地だった美馬市郡里こおざと地区では、戦後間もない時代に300軒を超える業者が携わり、年間100万本近くを製造していた。だが、和傘は洋傘に押されて衰退の一途をたどり、現在では、国内全体でも数十の業者しか存続していないという。

市商工会などが「マイスター育成」講座を開催したのは、2011年。細々と製造を続けていた高齢の女性が講師となり、15人が参加した。翌12年、有志で製作集団を作った。「せっかく教えてもらったのに、私たちがやめたら途絶えてしまう。やめられないと思ったんです」。メンバーで結成時の代表だった森下佳奈子さん(50)が振り返る。

往時の映像や資料で部品の作り方を学び、必要な機械は市販品を改良した。糸を通す穴は0.1ミリ単位で開け、骨を程よい厚さに削る作業は神経を使う。試行錯誤を重ね、商品の販売を始めた。料亭や傘回しの曲芸師から受注しているほか、ふるさと納税の返礼品や1歳の誕生祝いとして、市にも納入している。

親骨が48本で大ぶりな蛇の目傘は5万円。「個人客の注文は数えるほど」と住友さんは率直に言う。「でも」。開く際にワンタッチで済む洋傘と違い、和傘は柄をくるっと回して手を差し込む。そんな優雅な所作、手仕事ならではの丹念な仕上がり。代々続いた業者が市内にいなくなり、「昔ながらの日本文化を廃れさせたくない」との思いが強まる。

地元の学校での製作教室、観光客向けの体験教室に加え、後継者育成の講座を開き、そこから新たな仲間が工房に通うようになった。今後は四国の他県にも出向き、広く技と心を伝えるつもりだ。

(大阪文化部 布施勇如)

(2024年9月25日付 読売新聞朝刊より)

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