岩手県の内陸最北部に位置する二戸市の浄法寺地区は、日本一の漆の里として知られる。国内で使われる漆は9割以上を中国からの輸入に頼る中、国産漆の7~8割を浄法寺産が占める。
縄文遺跡から漆が付いた土器が出土したというほど、その歴史は古い。江戸時代、南部藩は「漆奉行」を置いて生産を奨励、漆の実も、ろうそくの原料として活用した。現在も市には「漆の
そんな浄法寺でも戦後、プラスチック製品に押され、全盛期に300人以上いたという漆掻き職人は約20人にまで減少。さらに、中世からの歴史を持つと言われる漆器、浄法寺塗も途絶えてしまう。
復活させたのは、岩舘隆さん(70)だ。漆掻き職人の父・正二さんに請われ、22歳で会社勤めから転身。漆は皮膚がかぶれるイメージがあるが、漆に囲まれて育った隆さんは無縁だった。「それだけでも2歩も3歩も先に行ける。競争相手もなく、フラットな状態でやれた。浄法寺の歴史と名前はあるし、行政の支援も大きかった」
淡々と振り返る岩舘さんだが、工房の一室には所狭しと賞状が飾られ、様々なコンペで実力を示してきた努力がうかがえる。ある公募展では絶妙なバランスの2色塗りの
一人で道を切り開いた岩舘さんに続くように1995年、当時の浄法寺町が工房兼展示販売所である「
近年、県外の若者が続々と移住し、漆掻き職人は約40人に増えた。漆掻きができない冬場には漆器を作る人も多いという。岩舘さんは「ここまで線路を敷いてきて、私の役目は終わったかな。後は若い人たちに」と目を細めていた。
(文化部 清川仁)
(2024年8月28日付 読売新聞朝刊より)
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