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2023.11.24

【工芸の郷から】小石原焼-オブジェ 新しい技法で挑む(福岡県東峰村)

本当に小石原こいしわら焼ですか? と思わず尋ねたくなるほど、実にモダンなオブジェだ。絡み合うパーツが醸し出す鋭さとしなやかさ。金属のような硬質な質感の中に、静かな威厳が漂う。

「切り継ぎ」の技法を用いて作られた森山さんのオブジェ

福岡県中東部に位置し、山々に囲まれた東峰村とうほうむら。小石原焼の陶芸家、森山寛二郎さん(38)が手がけるオブジェは、素朴な風合いの日用雑器が愛されてきた小石原焼にあって、異彩を放つ。

小石原焼は1682年、福岡藩3代目当主が佐賀・伊万里から陶工を招いたのをきっかけに、地元の高取焼との交流で発展した。工具で削り目を入れる「飛びかんな」や、刷毛はけを用いた「刷毛目」といった技法による文様に特徴を持つ。戦時中に一時衰退したが、1950~80年代の「民芸ブーム」で息を吹き返し、現在は50軒ほどの窯元がある。75年には陶磁器として初めて伝統的工芸品に指定された。

森山さんは佐賀県立有田工業高時代、陶芸家の深見陶治すえはるさんの抽象的な造形美の作品を雑誌で見て、感銘を受けたという。「どうやってできているのだろう」。佐賀大に進学以降、独自の技法を追求。2008年、父の元實もとみさん(75)が村で開く「實山かんざん窯」で共同作業を始めてからは、春と秋の年2回開かれる「民陶むら祭」に向け、器などを作る傍ら、オブジェ作りに力を注いできた。

パーツをかんなで削る森山さん

ろくろで土を円柱状に成形した後、ひもで思い描く形を切り取り、かんなで切断面を整える。パーツごとに釉薬ゆうやくを塗って焼き上げる作業を2~3回繰り返し、粘性の高い釉薬で貼り合わせ、さらに焼いて樹脂で接着する。森山さんはこの技法を「切り継ぎ」と呼ぶ。当初は高さ30センチが限界だったが、今では窯に入る約1メートルまで作れるようになった。

小石原焼の重要無形文化財保持者(人間国宝)の福島善三さん(64)は「地元で取れる鉄分の多い土と、釉薬は相性が良く、オブジェはその特性をうまく生かしている」と評価。さらに「『飛びかんな』が生まれたのは昭和初期。350年の歴史で、継承されて80年ほど。何にでも最初があり、新しく生まれた技法でも残ったものが伝統になる」と指摘する。

伝統的技法「飛びかんな」などが施された森山さんの食器

森山さんは現在、ろくろを使わず手びねりで、オブジェを作ろうと試みている。「いろんな作風があることで産地も活性化される。新しいものに挑戦しながら伝統を受け継いでいきたい」と意気込む。

(西部文化部 井上裕介、写真も)

(2023年11月22日付 読売新聞朝刊より)

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