工芸品は美しさをめでるだけでなく、実際に使って楽しむもの。文化庁、日本芸術文化振興会などが進める「日本博」の「 Kōgei Dining (工藝ダイニング)」は、重要無形文化財保持者(人間国宝)らが手がけた器で、地元の食を味わう催しだ。来年2月、福岡市の会場では、多彩な九州の焼きものが紹介される。
400年の歴史を持つ有田焼の中で、江戸時代から一子相伝の技法を受け継ぐ色絵磁器の人間国宝、十四代今泉今右衛門さん(58)(佐賀県有田町)。秘伝の技術で作られる作品は、格式高い美で人気を集める。
佐賀藩主の鍋島家が将軍家などに献上するために作らせた色絵磁器は「鍋島」と呼ばれた。今右衛門家は代々、藩窯お抱えの絵付け技師を務めた。
工藝ダイニングのお土産用の酒器は、桜や梅、桃など計10種の四季の花と、鍋島の技法の一つ「墨はじき」を応用した雪の結晶が描かれている。墨で文様を描き、上から
今回の酒器に込めた思いについて「一年中楽しめるよう四季を描きました。季節を感じながら食事を楽しんでいただければ」と語る。大きさは手に持ったときになじむように意識し、口当たりや手触りにもこだわったそうだ。
「かけた手間が作品に表れます。よいものを作ろうと試行錯誤する姿勢は、料理も作品作りも同じです」と話している。
福岡県東峰村(旧・小石原村)で約350年の歴史がある「
小石原焼は、削り目の並びが美しい「飛びかんな」や「
工藝ダイニングの会場では、九州各地の焼きものも紹介される。「九州は、江戸時代に各藩で焼きもの作りが奨励されました。今ほど物流が盛んではなかったので、その土地の土や素材で創意工夫を重ねるしかない。だからこそ、それぞれに個性がある多彩な焼きものが生まれました」
当日食事とともに供される日本酒用の酒器は、いくつかの試作品の中から今後形を決め、焼き上げる予定だ。「形の良いもの、面白いものはいくらでもできる。手に持って、口を付けて『おいしい』と感じられなければ意味がない。実際に使うという、ものづくりの原点を楽しんでもらえれば」と話している。
日本料理では、盛りつける器がもてなしに欠かせない。料理によってふさわしい器があり、素材の色合いとの組み合わせなどは料理人の腕の見せ所だが、会場となる料亭「嵯峨野」(福岡市博多区)の女将、藤井春奈子さんは「特に大切にしているのは季節感」という。夏はガラスや竹、冬は温かみを感じる陶器など、自然素材を生かした多様な器を使い分ける。
先代から受け継いだ器を大切に使いつつ、「若い料理人たちも産地などに少しずつ足を運んでいます。新しい感性を取り入れたおもてなしができれば」と話す。工藝ダイニングでは、地元の食材を生かした特別な会席料理を提供する予定だ。
◆開催概要◆【福岡会場】2022年2月5日16時~20時30分、福岡市博多区の料亭「嵯峨野」で。今泉今右衛門さん、福島善三さんのほか、佐賀県生まれの鈴田滋人さん(染織)、進行役の室瀬和美さん(漆芸)の人間国宝4人によるトークショーと食事会。酒器を持ち帰ることができる。事前申し込みが必要。詳細はホームページ(https://www.yomiuri-ryokou.co.jp/kokunai/premium/kogei_dining/fukuoka.aspx)から。
(2021年11月7日付 読売新聞朝刊より)
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