「日本彫刻の最高傑作」とも評され、多くの文化人を魅了してきた奈良・聖林寺の国宝「十一面観音菩薩立像」。初めて奈良県を出て、東京国立博物館(東京・上野公園)の特別展で展示されているが、特別展の会場(本館特別5室)を出たら、ぜひ平成館ラウンジに足を運んでいただきたい。そこで、もう一つの「十一面観音菩薩立像」に出会うことができる。
平成館ラウンジに展示されているのは、東京藝術大学大学院の留学生、朱若麟さんが制作した「模刻」だ。朱さんは文化財保存学専攻の「保存修復彫刻研究室」(岡田靖准教授)に所属し、十一面観音の制作過程を研究するため、実物と同じ「木心乾漆造り」という技法で十一面観音を作り上げた。「できる限り本物と同じ材料、同じ技法で作ることで、1200年以上前の作者の技の素晴らしさだけでなく、心まで感じることができたと思う」と話す。
先人の技や心を次世代へ――。そうした思いに満ちた模刻像は、9月5日まで展示されている(月曜休館、8月9日は開館)。
東京藝術大学の研究室から、道を挟んで向かいにある東京国立博物館まで、模刻像を運んだのは7月11日。閉館後に作業を行う予定で準備を始めようとしていたところ、急に雷鳴がとどろき、激しい雨になった。
実物の十一面観音像も、いわゆる「神仏分離令」の出された慶応4年(1868年)、三輪山・大神神社のふもとから聖林寺に運ばれた際に雨が降ったという。当時の話では「人々は観音様の涙雨だと言って、大八車をいったん三輪に戻した」と伝わっている。今回は、研究室を出るときには雨が上がり、きれいな空が広がっていた。
模刻制作の取り組みを紹介した記事はこちら https://tsumugu.yomiuri.co.jp/feature/geidaimokkoku/
東京藝大保存修復彫刻研究室のホームページはこちら https://www.hozonchoukoku-online2020.com/
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