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2024.8.23

【伝統文化を子どもたちへ1】日本舞踊・保育園児が稽古

保育園で日本舞踊の稽古をする子どもたち。前に立って踊る講師をしっかり見ながら、丁寧に踊る=安川純撮影

手のひらのスマートフォン一つで、何でも体験でき、手に入れることができる。現代の子どもたちは、そう錯覚していないだろうか。本来は、手や体を動かし、五感を総動員してこそ、本当の感動が得られるはず。その本質が詰まった伝統芸能や伝統工芸に、生き生きと取り組む子どもたちの姿を追った。

正座でお辞儀「日常の中に教え生かして」

 
背中ピンと

杉並の家けやき保育園(東京都杉並区)では、子どもたちが年中から年長までの2年間、日本舞踊の稽古に励んでいる。日本舞踊辰巳流家元の辰巳久美子さんを講師に招いて月2回、浴衣を着て、正座や扇の扱い方などを身につける。

同園では1980年からカリキュラムに取り入れている。体操やリトミックも実施しているが、今では日舞が一番長く続いているプログラムになった。

足袋をはき、先生に手伝ってもらいながら浴衣を着た子どもたち。ホールに集まると、自然と辰巳さんの前に並んで正座をする。背中をピンと伸ばし、両手を膝の前について「よろしくお願いします」としっかりとお辞儀をする。

日本舞踊家の辰巳久美子さん
経験が自信に

稽古では扇や傘を持ち、音楽に合わせてかわいらしく踊る。稽古の前後に辰巳さんが「足袋についている銀色のものは何でしょう」と尋ねると、子どもたちは元気よく「こはぜ!」と答える。クイズを楽しむようなやりとりを通じて浴衣のたもと、扇の要といった知識も得ていく。稽古を終えると子どもたちは再び正座して、自分たちで丁寧に浴衣をたたんでいた。

瀬上早百合園長は「大きくなった時、小さい頃に経験したことがあると自信になる」と優しい表情で語る。旅行先の旅館で子どもが自ら浴衣をたたみ、家族を驚かすこともあったという。

辰巳さんは「気持ちをこめてあいさつすること、道具を大切にすることを教えています」と語り、「扇を先生から受け取る時は両手を出す。そうしていると小学校に上がって、宿題を提出する時などに自然と両手で渡せるようになる。日常の中で生かしてもらえたら」と目を細めた。

(2024年8月17日付 読売新聞朝刊より)

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