手のひらのスマートフォン一つで、何でも体験でき、手に入れることができる。現代の子どもたちは、そう錯覚していないだろうか。本来は、手や体を動かし、五感を総動員してこそ、本当の感動が得られるはず。その本質が詰まった伝統芸能や伝統工芸に、生き生きと取り組む子どもたちの姿を追った。
重要有形民俗文化財に指定されている群馬県渋川市の「上三原田の歌舞伎舞台」で毎年11月、子どもたちが歌舞伎「弁天娘女男白浪」を披露している。歴史ある舞台に上がるのは、近くの市立三原田小歌舞伎クラブの4~6年生10人だ。
クラブの設立は10年ほど前。この地域では江戸時代から農民による地芝居が盛んだったが、時代とともに一座や舞台は減少。それまで子どもたちが歌舞伎に関わる機会はほとんどなかったという。ただ、子どもたちは地域学習の一環で舞台について調べており、「せっかくなら舞台に上がれる機会も作ろう」と始まった。
最初は大きな声を出せなかった子も稽古を重ねるうちに、本番では大勢の観客を前に立派に演じるという。指導にあたる赤城古典芸能保存会の藤川栄さんは「地元の人たちと関わりながらやりきることで、自分の地域はすごいんだと誇れるようになってほしい」と語る。今年〔2024年〕の公演は11月9日に行われる。
(2024年8月17日付 読売新聞朝刊より)
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