工場を開放して見てもらうオープンファクトリーや、地域が一体となって魅力を掘り起こす取り組みは近年、全国各地の産地に波及していっている。各地の旗振り役は、自己利益は脇に置き、土地の歴史や特性をアピールしながら、地域を巻き込んでいく。地域の連携は、さらに産地間の連携へと広がりを見せる。今、地方が面白い。
山口典宏社長(50)は「わざわざここに来る人は、そのまま帰らないはず。どこかでご飯を食べたり、泊まったりするかもしれない。それだけでも地域貢献になる」と語る。「新しい地場産業のかたちをつくる」が社のミッション。「地域の人たちが喜び、地域の自慢にならないと地場産業として成り立たない」と断言する。
毎秋には「こもガク」という体験を中心としたイベントを、発起人の一人として地域の人々と開く。移住者らに町の魅力を知ってもらい、さらに町外の人に伝えてもらおうという取り組みだ。10回目の今年、教育や福祉にも範囲を広げるという。工場そばには交流拠点「かもしかビレッジ」があり、月1回イベントを行っている。「子供たちに夢を与えたい。工芸は後継者不足というが、継ぎたくなる環境を作るのも仕事」
地域の子供たちのために約100年ぶりに日本古来の製鉄を復活させたのが、松江藩の鉄師だった家の流れをくむ企業「
2018年の操業復活後は製鉄工程の公開を呼び物とするだけでなく、「総合的な里づくり」を目指し、古民家を活用した宿泊施設、森の中のアスレチック施設などを次々に整備している。整備事業を担うグループ会社「たなべたたらの里」の井上裕司執行役員は「一度来て満足するのではなく、何度も訪れたくなるような里づくりを現在進行形で行っている」と話す。
一方、「燕三条 工場の祭典」のように、地域あげての産業観光イベントで勢いがあるのが、福井県の「RENEW」だ。鯖江市・越前市・越前町という眼鏡、漆器、和紙などのものづくりが盛んなエリアで、工場見学などを魅力的に行う。若い観光客を集めるだけでなく、10年間の取り組みで120人の移住者、40店舗の新規出店を生み出すなど、地域の景色や雰囲気を変える成果を上げている。
開催中の大阪・関西万博で、ものづくり産地を代表するブランドが新たに制作した、あっと驚く工芸作品が展示される。EXPOメッセ「WASSE」で〔2025年6月〕16日から18日に開かれるイベント「JAPAN CRAFT EXPO 日本工芸産地博覧会in大阪・関西万博2025」(主催・読売新聞社、日本工芸産地協会)には、全国の職人たちが集い、伝統技法の実演も行う。
日本の工芸産地と万博の関わりは深い。明治から昭和にかけ、政府が各地の工房に国内外の万博への出品を依頼。「最高の作品を」と試行錯誤したことから、さまざまな技術が生まれ、発達した。また、日本工芸産地協会は2021年と23年に、今回の万博を視野に入れ、大阪・万博記念公園で「日本工芸産地博覧会」を開催している。
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かまどに落ちないよう、本体から鍔が張り出した作りが特徴。職人歴20年超の蓑輪朋和さん(45)らがチームを組み、初代が作った現存する唯一の鍔薬罐を基に4倍の大きさで再現した。1メートルの「巨大やかん」を展示し、彫金師が会場で装飾を施す。蓑輪さんは「なかなかできない大がかりな挑戦だった。ぜひ、この大きさや彫金の技術を見てもらいたい」と話している。
下絵なしで模様を描く技法「線彫」で知られる
工芸を中心とした各地の主な観光イベントと今年〔2025年〕の開催日
■「千年未来工藝祭」(福井県越前市、8月30、31日)
■「360-よねざわオープンファクトリー」(山形県米沢市、9月11~13日)
■「市場街~TAKAOKA CRAFT CHIBAMACHI~」(富山県高岡市、9月20~23日)
■「燕三条 工場の祭典」(新潟県燕市・三条市、10月2~5日)
■「RENEW」(福井県鯖江市・越前市・越前町、10月10~12日)
■「クラフトフェア ツギノテ」(高岡市、10月18、19日)
■「和歌山ものづくり文化祭」(和歌山市、10月18、19日)
■「こもガク」(三重県菰野町、10月25、26日)
■「関の工場参観日」(岐阜県関市、11月13~15日)
(2025年6月1日付 読売新聞朝刊より)
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