地域で保護される文化財の中には、美術的、歴史的価値の高いものが少なくない。地域住民が守り継いできた観音像が数多く点在する滋賀県長浜市高月町は「観音の里」として、全国から注目されている。ただ、こうした地域にも人口減少、高齢化の波が押し寄せており、将来、住民の努力だけでは文化財の維持継承が困難になるとの指摘がある。
早咲きの河津桜で知られる静岡県河津町には「河津平安の仏像展示館」がある。薬師如来坐像(像高約115センチ、9世紀)をはじめ地元に伝来した平安時代の仏像26体を保存・公開する施設で、静岡県の補助金を受け、地域住民が力を合わせ2013年に開設した。その一部が静岡県指定文化財だった仏像群は24年、一括して重要文化財に指定された。
仏像群は河津町谷津地区にある無住の寺院・南禅寺に伝わったもの。15世紀に起きた山崩れで土砂に埋もれ、長い時をかけて掘り出されたもので仏像の多くが腕を失い、表面が傷んだ状態だ。
河津町に近い上原美術館(静岡県下田市)の学芸員、田島整さん(55)は「仏像群を代々守り伝えてきた高齢の男性(故人)から2008年に相談を受けたことが、展示館建設のきっかけになった」と言う。
男性は、自分一人で仏像群を守り伝えることに不安があり、地元の区に管理を委託したいと述べ、田島さんに「区の役員を集め、仏像群の価値を再認識する勉強会を開きたいので講師を務めてほしい」と依頼した。
田島さんは快諾し、「勉強会では、千年を経て今日に伝わった貴重な仏像であることを、私自身の感動そのままに語った」と振り返る。役員らも「そんなにすごい仏像とは思わなかった」などと感動した様子で、その後も勉強会を重ね、各地の展示施設を視察するなどして自分たちの展示館を完成させた。外観は一般的な展示施設に見えるが、内部はさながら木造のお堂。ガラスケースはなく、来館者はすぐ目の前で仏像を拝観できる。
黒田衛・同館長(74)は「まずは『知る』ことが大切。仏像群が貴重なものであると知ったときの感動を風化させないために、仏像群の情報を発信し続けたい」と話す。展示館は金~月曜開館。地域住民がボランティアで解説にあたる。入館料は高校生以上700円。小・中学生100円。
(2025年3月2日 読売新聞朝刊より)
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