国内産業の発展を奨励する内国勧業博覧会は、1877年(明治10年)に始まり、第5回が1903年(明治36年)3月から7月まで、大阪・天王寺今宮地区で開催された。その規模は過去最大で、会期中の観客動員数は530万人を超えたという。
明治天皇も京都御所から都合8度も訪問された。4月20日には天皇臨席のもと、博覧会開会式が敷地の最も奥まった位置にある美術館後方の式典会場で挙行された。この美術館は天皇の休憩所も設けられた重要な施設であった。
第5回博覧会は「内国」とはいえ、初めて諸外国の参加を得て、国際的な万国博覧会に準じる内容となった。海外からの観客も少なくなく、彼らの利便を考え英語版会場案内図が作成されたと想像される。
「第五回内国勧業博覧会平面図」はそのような案内図を絹に印刷し、向きを90度回転させ縦長の掛け軸に仕立てたもので、余白にはインデックスを設け、挿図に大阪城
軸先や収納箱は銀製で、立体的かつ豪華な装飾が施され、蓋には菊の御紋が明示される。横浜・山下町の美術商「クーン&コモル商会」が、博覧会副総裁の男爵・平田東助を通じて天皇へ献上した品である。
アーサー・クーンとジークフリート・コモルといういとこ同士が経営する同商会は、平面図右上部に示される美術館内に事務所を構えた。そこには「K&K’s」の商標が見え、インデックスでは冒頭に社名が載るが、同商会が本博覧会で担った役割には一考の価値があるだろう。
同商会は銀製品を多く扱い、有能な日本人銀細工師を抱えていたようで、本作のような重厚で装飾的な作品を数多く世に送り出した。箱底には「良勝」「純銀」の銘が彫られたプレートがあるが、同様の銘を持つ作品が少なからず知られ、同商会がジャポニスム流行の機運に乗じて日本美術を広く内外に流通させた様子が
(皇居三の丸尚蔵館 特任研究員 朝賀浩)
◆特別展「日本国宝展」
【会期】〔2025年〕6月15日(日)まで。月曜休館。午前9時30分開館。閉館は1日は午後5時(入館は30分前まで)。3日から平日午後6時30分、土日午後7時30分(入館は1時間前まで)
【会場】大阪市立美術館(天王寺公園内)
【観覧料金】一般2400円など
【問い合わせ】06・4301・7285(大阪市総合コールセンター)
【公式サイト】https://tsumugu.yomiuri.co.jp/kokuhou2025/
(2025年6月1日付 読売新聞朝刊より)
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