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2024.9.9

【皇室の美】明治天皇が「見た」風景 写真に記録

皇居三の丸尚蔵館展 皇室の至宝 北海道ゆかりの名品

幕末に日本へ伝わった写真術は初め、開港地を中心に広まり、明治時代に入ると、各地へ普及していった。

明治天皇は1872年(明治5年)の「御真影」撮影に代表されるように、早くから写真に触れる機会があり、その高度な記録性を認識していたと推測される。それを示す事例の一つが、同年から数度実施された大規模な国内巡幸だ。撮影された各地の風景写真は、被写体そのものが歴史的に貴重で、明治天皇が見ることを前提に撮影されたという点で非常に重要だ。

明治天皇は81年(同14年)、東北地方、北海道を巡幸したが、北海道では小樽、札幌、千歳、苫小牧、函館などを巡った。その際撮影された写真を収録した「明治十四年めいじじゅうよねん巡幸じゅんこう写真帖しゃしんちょう」には、小樽で開設されたばかりの住吉停車場(現・JR南小樽駅)や、「宇津内沼うつないぬま」と呼ばれていた苫小牧のウトナイ湖などの風景が載せられている。

後志国しりべしのくに小樽郡おたるぐん停車場ていしゃじょう(住吉停車場)隧道ずいどう 「明治十四年巡幸写真帖」(1881年、大蔵省印刷局)皇居三の丸尚蔵館収蔵
胆振国いぶりのくに勇払郡ゆうふつぐん植苗村うえなえむら沼ノ端ぬまのはた御野立場おのだてばより宇津内沼景うつないぬまけい 「明治十四年巡幸写真帖」(1881年、大蔵省印刷局)皇居三の丸尚蔵館収蔵

それらの多くは、純粋に北海道の勝景にフォーカスが当てられており、開拓使主導で撮影された、北海道の近代化をとらえた写真とは異なる。明治天皇が巡幸先で心に留めた風景などを随行写真師に撮影させたという記録が「明治天皇紀」に散見されることからも分かるように、明治天皇の意向が反映されたのだろう。

住吉停車場周辺は悪天候による船舶の遅延のため、明治天皇の訪問がかなわなかった。収録写真は、その数日後に有栖川宮ありすがわのみや熾仁親王たるひとしんのうが天皇に代わって訪れた折に撮影されたと推定される。

このように巡幸写真の中には、明治天皇が訪れることができなかった場所を後に見られるよう撮影され、巡幸を補完する役割を担うものもあった。

天皇の姿が一切写されていない巡幸写真だが、これらは天皇がじかに見た、または見るべき国土の風景を収めた写真群なのだ。

(皇居三の丸尚蔵館研究員  木谷知香)

皇居三の丸尚蔵館展 皇室の至宝 北海道ゆかりの名品

【会期】〔2024年〕9月21日~10月27日。月曜休館。休日の9月23日と祝日の10月14日は開館し、翌火曜日休館
【会場】北海道立近代美術館(札幌市中央区)
【主催】北海道立近代美術館、テレビ北海道、北海道新聞社、日本経済新聞社、皇居三の丸尚蔵館
【特別協力】文化庁、紡ぐプロジェクト、読売新聞社
【問い合わせ】011・644・6882

(2024年9月7日付 読売新聞朝刊より)

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