日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2025.4.7

【読売あをによし賞】守る技と伝える人にも光 ― 第19回候補者 応募受け付け

読売新聞社が主催する「読売あをによし賞」は、文化遺産の継承に取り組む個人や団体を2007年から毎年表彰してきた。23年からは「保存・修復」と「継承・発展」の2部門で選定している。運営・選考委員で重要無形文化財(蒔絵まきえ)保持者(人間国宝)の室瀬和美さんに、賞の役割や今後の展望を聞いた。

 

運営・選考委員
重要無形文化財保持者

室瀬和美さん

「保存・修復」「継承・発展」
  2部門化に意義 

文化財と聞くと、建造物や工芸品に限られるように思われがちだ。あをによし賞は、文化財を守るための無形の技や次世代に伝える活動にも贈られてきた。文化財保護の両輪と言える「保存・修復」と「継承・発展」の2部門に分けることで、より意義深い顕彰ができるようになったと思う。日本の文化を底支えする、縁の下の力持ちの活動に光を当てるのが運営・選考委員の一貫した願いだ。

文化遺産の継承は「伝統を守る」だけではない。技術を伝え、人を残して「伝統を創る」とも言える。現在、伝統と呼ばれるものも、始まった時代には最先端の技術やデザインだった。私が過去に手がけた文化財の復元模造制作では、現代の材料や技術では作れないものもあり、代替手段を考えたことがあった。伝統を伝えるためには常にクリエイティブさが求められる。

あをによし賞が始まって20年近くが経過し、文化財に携わる者の間では一定の認知を得られている。「守る」ことと「伝える」ことを顕彰することで、広く一般の人々にも知られ、文化財保護の意識が高まればと期待している。

「継承・発展」部門では、23年に古河こが神楽保存会(茨城県古河市)が受賞した。約300年の歴史がある神楽を受け継いでおり、次世代を育てる活動が評価された。24年には、漆芸しつげい作家や輪島塗などの職人を養成する石川県立輪島漆芸技術研修所(石川県輪島市)が選ばれた。次の世代を育てることに焦点をあて、技術や価値観といった無形の技を顕彰していく方向性がはっきりした。

今回の応募からは自薦を廃止し、第三者の推薦が必要となる。あをによし賞は、活動を世に知らしめることが目的。活動を他者に共感してもらうことが文化財保護の第一歩となる。自分たちの活動について周囲への理解を広め、応援してもらうことが望ましい。

発表会で神楽を舞う古河神楽保存会のメンバー(昨年10月撮影)=古河神楽保存会提供

2023年受賞 「継承・発展」部門
古河神楽保存会

茨城県古河市の鶴峯八幡宮に伝わり、約300年の歴史がある「古河永代太々(だいだい)神楽」の継承を目的に、1929年に住民有志が結成した。毎年、神楽舞を披露している。コロナ禍で途絶えていた地域の子どもたちへの出前教室は昨年7月に再開。受賞を機に、注目度が高まっているという。

漆芸の研修に励む生徒ら(昨年12月撮影)=石川県立輪島漆芸技術研修所提供

2024年受賞 「継承・発展」部門
石川県立輪島漆芸技術研修所

重要無形文化財保持者(人間国宝)の技術を継承する拠点として1967年に設置され、輪島塗などの担い手を育てている。2024年1月の能登半島地震による被害で休講し、10月に研修を再開した。同年4月の入学は延期されたが、12月には入学式を終え、復興に向けて歩み始めている。 

候補者 応募受け付け 

 読売新聞社は「第19回読売あをによし賞」の候補者の応募を受け付けている。文化財の保存、修復の最前線の現場を支える活動「保存・修復」の部と、工芸や芸能などの伝統文化を継承し、発展させる取り組み「継承・発展」の部で選考する。賞金はそれぞれ200万円。締め切りは5月31日(必着)。
 所定の応募用紙に取り組みの概要などの必要事項と、推薦を受ける第三者の情報を記入し、Eメールまたは郵便で送る。再応募も可能で、海外での活動も含む。宛先は〒530・0055 大阪市北区野崎町5の9、大阪読売サービスイベント事業部「読売あをによし賞」事務局。メールは awoniyoshi@yomiuri.comへ。
 問い合わせは事務局(06・6366・1857=平日午前10時~午後5時)。結果発表は秋頃を予定している。

(2025年4月6日付 読売新聞朝刊より)

Share

0%

関連記事