明治38年(1905年)創業の「礒村」(京都市)は、伝統建築の装飾に使う「錺金具」の製作を手がける。伊勢神宮や大阪城天守閣といった数々の名建築に採用され、自然素材にこだわった昔ながらの伝統技法を守り伝えている。
水銀の作用を生かして銅板に金メッキを施す過程では、職人が鉄のへらを一定の力でスライドさせ、鏡のように美しい輝きを生み出す。へらの当たる幅は1ミリにも満たず、感覚だけで均一に仕上げるのはまさに熟練の技だ。
仕上げにイネ科の植物のカリヤスを煎じた煮汁を刷毛で塗り、色を落ち着かせる。
「自然素材を使っている分、その時々で出来るものが違う。工業製品に替えてしまうと均一的で面白みがなくなる」。4代目の礒村哲朗さんは自然素材ならではの奥深さを大事にしている。
京都迎賓館には、木材に打ったクギを隠す「釘隠」として礒村の錺金具が採用された。ただ、現代では伝統的な建築物の修理など用途はごく限られ、技術の伝承が課題だ。
礒村さんは「先人が培った中でも選りすぐりの技術が残ってきた。一から十まで手順を守り続けることで、初めて技術の伝承ができる」と力を込めた。
(2020年12月6日読売新聞より掲載)
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