工芸は日本美術の本流として長く日本の豊かな自然が育む美を伝えてきた。明治維新以降、西洋美術が美術の中心を担うと、工芸は実用品として美術とは別の立場に置かれてきた。海外で評価が高まるにつれ、日本美術の本質を伝える工芸の技と美が、美術品として見直されている。政府が推進する「日本博」の一環として9月21日に開幕する特別展「工藝2020―自然と美のかたち―」に出品する名匠の技と美を紹介する。
漆芸に対する知識と経験が積み重なるほど、歴史の重みを感じるようになった。千年を超え人々が伝え残した財産があるから、今がある。創作活動と文化財の保存活動は両輪だ。
保存活動のため40代で海外に行った。美術館や博物館の担当者と話し、「海外の人がこんなに漆を大事にし、興味を持っている」と驚いた。出来上がった作品だけでなく、素材や技術の素晴らしさも知ってほしい。そうすれば、違う興味が湧くのではないか。
伝統を守ることと新しくすることは、実は表裏だ。伝統は変わらないようでいて、クリエイティブに変わり続けて、現代に至っている。文化財の修理に携わっていると、その情報が作品から伝わってくる。例えば、800~1000年ほど前の
最近、自分でもゴツゴツの金粉を作って
新緑、花、紅葉、雪など、バリエーション豊かな自然の美がある一方、日本ほど災害が多い国はない。そのバランスの中で成り立っているのが、日本の自然であり、日本の工芸だと思う。日本人が憩い、潤いを感じるのは、実は先人たちが荒れ地を切り開き、手を入れてきた自然。その自然から素材をもらい、それを造形していく。自然と工芸は重なり合っているのだ。(談)
室瀬氏の作品は、多彩な色彩と格調高い表現が特徴。様々な技法を駆使して花や鳥など、動植物を主なモチーフに自然を生き生きと表現してきた。本展に出品される「
創作のかたわら、国宝「梅蒔絵手箱」(三嶋大社所蔵)の模造制作や、ロンドン、プラハなど、海外での保存修復活動にも携わってきた。漆の美を伝えるべく、海外への出展、講演活動も積極的に行っている。
むろせ・かずみ
漆芸家。1950年、東京都生まれ。東京芸術大大学院漆芸専攻修了。蒔絵や螺鈿の技法を発展させ、独創性あふれる華麗な作品を次々に生み出す一方、国宝や重要文化財の修理・復元を数多く手がけてきた。後継者の育成にも、積極的に携わっている。日本伝統工芸展の東京都知事賞など受賞多数。2008年に重要無形文化財「蒔絵」保持者の認定を受けた。
2020年9月6日付読売新聞から掲載
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