中国を舞台にした2000年の映画「初恋のきた道」(チャン・イーモウ監督)に印象的なシーンがある。割れた思い出のお
このような鎹の技法で修理された中国・南宋時代の名碗が日本にある。鎹を大きなイナゴに見立てた銘を持つ、重要文化財「青磁輪花茶碗 銘
室町時代、足利義政の手にあった際、ひびが入り、中国に送って替えを求めたが、勝るものは作れないと鎹止めされて送り返されたと伝える。だがこれは、江戸中期の知恵者・伊藤
同じような名品には「青磁輪花茶碗 銘 鎹(馬蝗絆)」(マスプロ美術館蔵)がある。室町時代に記録が残り、口縁には、漆と金を用いた日本流の金繕い(金継ぎ)も施されている。
これらの鎹の修理で驚かされるのは、鎹が器の反対側に飛び出していないこと。青磁は厚さ3ミリ程度と薄い。恐らく1ミリ弱まで穴を開け、鎹で止めているのだ。
中国で鎹止めされたとはいえ、修理された品であるが故に価値を認め、愛でるのは、日本独特の感性だ。青磁は、完璧さが賞玩される観賞陶器であるとともに、茶道具でもある。茶道具では少しひねた見方がされ、ゆがんだり割れたりしたものを愛する。人間も少し欠点を内包していた方が尊敬される。完璧さを嫌う日本独特の考え方が反映している。
こうした世界観を背景に、焼成中に生じた陶磁器の火割れなどでも、逆にそれを「景色」として楽しむセンスが生まれた。江戸時代の本阿弥光悦作で、「光悦五種」「光悦七種」として
重要文化財「赤楽茶碗 銘
「赤楽茶碗 銘 障子」(サンリツ服部美術館蔵)も、火割れが漆で繕われている。茶碗の後ろには裂け目が3本あり、光にかざすと、透明な
繕い方には、他に「
修理されたり、火割れの造形を生かして繕われたりしても、それを隠さない。居直っている。だからこそ歴史の重みが増し、通常ならば欠点になるところが長所になる。こうした器を外国人が見ると「こんな風に大事にしているのか」と驚嘆する。今でいう「エコロジー」の精神にもあふれた美しさだと思う。(談)
たけうち・じゅんいち 1941年生まれ。美術史家(茶道美術史、日本工芸史)、東京芸術大名誉教授。永青文庫(東京都文京区)館長など歴任。著書に「織部 日本陶磁全集16」「美術館へ行こう(やきものと触れあう 日本)」など。
(2020年5月3日付読売新聞朝刊より掲載)
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