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2020.12.10

【大人の教養・日本庭園の時間vol.2】日本庭園を味わう3のヒント教えます

京都・南禅寺などの古刹こさつを手がける老舗「植彌うえや加藤造園」の山田咲さんが、日本庭園の魅力をわかりやすくレクチャーする企画「大人の教養・日本庭園の時間」の第2回は、より具体的な味わい方を紹介します。

京都・無鄰菴 ©植彌加藤造園

前回は、お庭の味わい方の重要ポイント二つを押さえました。「古さ」と「ビューポイント」ですね。今回は庭師の視点や歴史を踏まえながら、より具体的に日本庭園を味わうための三つのヒントをお伝えします。

ヒント1:自然に見えるものにこそ、庭師の技が宿る
ヒント2:日本庭園には時代ごとに様式があり、積み重なって現代に至る
ヒント3:庭と建物は二つで一体

それでは、一つずつ見ていきましょう。

自然に見えるものにこそ、庭師の技が宿る

平安時代に書かれた我が国最古の作庭指南書『作庭記』にはこうあります。

或人のいはく、人のたてたる石は、生得の山水にはまさるべからず

人間がどんなに意匠を凝らして造形したところで、自然の造りだすカタチにはかなわない、という意味です。

これは、「造ることを諦めろ」といっているのではありません。「だからこそ、まずは自然のカタチをよく観察して、そのすばらしさを理解できる人間になりなさい。そうしなければ、庭の良さも悪さも見分けがつきませんよ」という意味です。

手入れの様子 ©植彌加藤造園

この考え方をもっともわかりやすく伝えているのが、樹木の剪定せんていの仕方です。特に京都では、どこに手を入れたのかがわからないような自然な印象に、しかしながらすっきりと空間が整理されていて、枝ごとの美しさが引き出されている――そんな剪定が良いとされます。少しかっこよく言うならば、「無作為の作為」でしょうか。

「ここまでは剪定が終わっていて、向こう側はまだだな」と訪れた方にわかってしまうようでは、NG! 手を入れているのに、何もされていないような涼しげな顔をしている庭を育むのが、一流の庭師です。しかも、風や太陽や雨がそう育てたかのように見せるのです。

庭師の観察眼

一流の庭師は、優れた観察眼を持っています。たとえば、自然の滝の姿がカッコいいと気づいたなら、滝の水が下に落ち始める場所の石はどういう配置になっているのか、木陰が気持ちいいなら、そこにはどんな種類の樹木が植わっているのか……など、常に自然の景色を分解しながら観察しています。

皆さまもぜひ、お庭を訪れたら景色を分解してみてください。ごく自然にあるかのような石の配置や、樹木の傾斜などに、自然の美を追究する庭師の視点が隠れているはずです。

日本庭園には時代ごとの様式があり、積み重なって現代に至る

様式の積み重ねが感じられる南禅寺・六道庭 ©植彌加藤造園

日本庭園の歴史を振り返ると、時代ごとに様々な様式が生み出されてきました。しかも、時代が移り変わっても消し去られることなく、積み重なって現在に至っています。

日本庭園の歴史

・飛鳥時代=大陸、朝鮮半島の庭の写し(模倣)がメイン。方形園池(四角い池)など、今の日本庭園とはかなり違った印象です。(例:奈良・飛鳥京跡苑池遺構)

・奈良時代=護岸に州浜といった海の景色を表現するなど、現在の日本庭園にもみられる要素が出現します。(例:奈良・東院庭園、宮跡庭園)

・平安時代=寝殿造しんでんづくりの邸宅とともに、池泉回遊ちせんかいゆう式の庭が造られ、貴族が歩いて巡ったり、時には池に舟を浮かべたりと、文化のツールとして使われました。広々とした敷地に水をふんだんに使った超豪華なスタイルです。(例:岩手・毛越寺庭園、京都・神泉苑)

・鎌倉~安土・桃山時代=仏教の新ウェーブである禅宗が広まり「枯山水」が出現します。水を使わず、石や砂利などで雄大な景色や、禅宗などの抽象的な思想を表現しています。この時代は茶道が大成し、わび・さびをあらわす露地庭(茶庭)が造られ、燈籠やつくばいなど、現代の私たちも見慣れた要素が用いられるようになりました。(例:京都・龍安寺、天龍寺、銀閣寺)

・江戸時代=安定した徳川政権下では、各地の大名が広大な「大名庭園」を造りました。敷地内に建築物を点在させ、そこをめぐる園路が敷かれます。(例:岡山後楽園、東京・六義園)

・明治~戦前=財力を誇示する造園は、大名や寺社仏閣から財閥や政治家へ移行。近代土木工法を活用し、彼らの別荘には水が引かれ、茶庭や回遊式の園路など、それまでの庭園の様式をそれぞれに引き継ぎつつ、所有者の趣味を反映した庭が造られました。(例:京都・無鄰菴むりんあん、東京・旧古河庭園)

・現代=多くの人が集う公共空間としての庭園が出現しました。用途が広く、公園、緑地、庭園の境界がなくなり、「人が集う場をどのように造るか」という視点で造られる庭が多くなります。(例:東京・三菱一号美術館の庭、グランフロント大阪のテラスガーデン)

人が集う場所として造られている京都・けいはんな記念公園   ©植彌加藤造園

こうして並べてみると、今私たちが思っている日本庭園らしさというものが、ある瞬間に一度に表れたわけではなく、時代ごとの人々の生活スタイルを反映し、それが積み重なって生まれた「らしさ」であることが、よくわかりますね。

庭と建物は二つで一体

日本庭園は、敷地の中の建物と一緒に見ると、さらに深く味わうことができます。「庭屋一如ていおくいちにょ」という言い方があります。庭と建築を別々の空間として考えるのではなく、「二つで一つ」という考え方です。現代では建築を先に考えて、あとから装飾的に庭のような空間を周辺に配置する、という順序で庭を捉えることが多いように見えますが、そうではありません。

例えば山の近くにある場合は、山を借景として庭に取り込んでいることが多いので、建物は庭越しに山をながめられる場所に建てられます。東京のような丘が続く地形では、広がる庭園を見下ろすような場所に母屋が建てられることもあります。あるいは、あえて建物の南側に流れや池を設けて、水面に反射する陽光を室内にとり込むといった趣向もあるのです。

©植彌加藤造園

つまり、敷地のどの部分に建物が立っているかを見れば、その庭の意図が浮かび上がってくる、とも言えます。

庭が庭だけで存在することは、ほとんどありません。庭は往々にして、人が使う建物とともにあります。そして、そこに居を構えた所有者が、どのようにその土地の特徴を読み解き、どのような生活をそこで営みたいと願ったのか……庭と建築の関係には、様々な思いが表れているのです。

さあ、日本庭園の見方を一通りご理解いただけたでしょうか。次回は、ご一緒に、京都にある国指定名勝の日本庭園、山県有朋が愛した「無鄰菴」を読み解いていきましょう!

おすすめ庭園情報<南禅院>

©植彌加藤造園

京都の古刹・南禅寺の境内を通るモダンなレンガ造りのアーチ橋を、ご存じの方も多いのではないでしょうか。この「南禅寺水路閣」のすぐ横に、ひっそりたたずむ庭園が南禅院です。そして、ここが南禅寺発祥の地。鎌倉時代から、なんと730年もの間在り続ける歴史ある庭で、京都随一のミステリアスな雰囲気を醸していると言っても過言ではありません。今回学んだ日本庭園の歴史や庭師の技をぜひ探してみてください。やっぱり京都は奥が深い!と感じていただけるのでは。

公式サイト http://www.nanzen.net/keidai_nanzenin.html

開園時間
• 【12月~2月】午前8時40分~午後4時30分
• 【3月~11月】午前8時40分~午後5時
• 12月28日~31日は拝観停止

山田咲

プロフィール

植彌加藤造園 知財企画部長

山田咲

1980年生まれ。東京都出身。慶応義塾大学文学部哲学科卒業、東京芸術大学大学院映像研究科修了。現在、京都で創業170余年の植彌加藤造園の知財企画部長を務める。国指定名勝無鄰菴をはじめ、世界遺産・高山寺、大阪市指定名勝の慶沢園などで、学術研究成果に基づいた文化財庭園の活用のモデルを推進。開発した[文化財の価値創造型運営サービス]が2020年度グッドデザイン賞受賞。他方で舞台芸術作品の制作などにも関わり、文化的領域を横断した活動を続けている。

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