天皇陛下の即位を記念し、奈良・正倉院に伝わる宝物を公開する「第71回正倉院展」(主催・奈良国立博物館、特別協力・読売新聞社)の開会式が25日、奈良市の奈良国立博物館で開かれた。招待客ら約2400人が、天平の美の世界を一足早く堪能した。一般公開は26日から11月14日までで、会期中無休。
令和初の開催となり、初出展4件を含む計41件を展示。正倉院宝物を代表する、樹下にたたずむ天平美人を描いた「鳥毛立女屏風」全6扇が展示されるのは20年ぶりとなる。金銀の薄い板で酒宴を楽しむ人物などの緻密な文様をあしらった楽器「金銀平文琴」など彩り豊かな宝物が並ぶ。
開会式で松本伸之館長は「今年は正倉院宝物の中核となる品、ご即位にまつわる品など粒よりの名品がそろう。じっくり鑑賞してほしい」とあいさつ。西川明彦・宮内庁正倉院事務所長は「皇室などによって守られてきた宝物を未来にも継承していきたい」と述べた。この後、溝口烈・読売新聞大阪本社社長ら4人でテープカットした。
開館時間は午前9時~午後6時。金~日曜と祝休日は開館時間を午後8時まで延長する。
「1300年も受け継がれてきた歴史に感動」
奈良市の奈良国立博物館で25日に行われた「第71回正倉院展」(主催・奈良国立博物館、特別協力・読売新聞社)の開会式では、国内外の招待客らが41件の至宝を鑑賞し、天平時代のきらびやかな宮廷儀式や文化の交流に想像を膨らませていた。
「赤色がとてもきれいで、高貴な色は洋の東西を問わないと感じた」。752年に営まれた東大寺の大仏開眼会で聖武天皇が履いたとされる靴「衲御礼履」の鮮やかな色に感動したのは、大阪・神戸ドイツ総領事館のウーヴェ・メアケッター首席領事(59)。「いにしえの天皇が履いていただけでなく、1300年も受け継がれてきた歴史に感動した」と絶賛した。
宝物が放つ金色の輝きに魅了される人もいた。韓国・国立慶州博物館の閔丙贊館長(53)は、聖武天皇や光明皇后の頭上を飾ったとされる冠の一部「礼服御冠残欠」に見入った。冠は鎌倉時代に持ち出された際に破損したとされ、「冠の完全な姿はたいへん華麗なものだったのだろう」と思いをはせた。
それぞれの宝物からは、作り手の丁寧な仕事ぶりが見て取れる。聖武天皇の遺愛品のリスト「国家珍宝帳」の冒頭に記された「七條刺納樹皮色袈裟」は赤や青、黄などの端切れが1枚に縫いつながれている逸品。古代織物の復元を手がける京都市の「龍村美術織物」顧問の白井進さん(77)は「すさまじい手間をかけて細かく縫っている。貴重な絹を大切に扱ったのだろう」と感心する。
奈良女子大の中国人留学生の劉芸厄さん(24)は、花のような角を持つ中国の霊獣・花鹿が大きく浮かぶ皿「金銀花盤」に興味を持った。中国・唐から伝わったとされ、「宝物がきれいな形で残っているのに驚いた。中国と日本が古くからつながっているんですね」と語る。
今回は、令和初めての正倉院展となる。映画評論家の浜村淳さん(84)は、革袋形の水入れで、長さ1メートル近くもある「漆胡樽」を見つめ、「ラクダにぶら下げ、砂漠をゆく光景が目に浮かぶ」と想像。彩り鮮やかな宝物が並んだ会場を見て、「令和が明るい時代になると確信した」と笑顔を浮かべた。
東京国立博物館でも「正倉院の世界」展
天皇陛下の即位を記念して東京国立博物館でも特別展「正倉院の世界―皇室がまもり伝えた美―」(主催・読売新聞社など)が11月24日まで開かれている。