全50回をもって終了した紡ぐサイトの連載「ボンボニエールの物語」。これまで、ボンボニエールが持つ、様々な物語を紡いできました。読者の皆さまにも、ボンボニエールの魅力をお伝えできたのではないかと思っているのですが、やはり、ウェブ上の画像では、その一面しかお見せできず、その可愛らしさや技巧を、どうすればお伝えできるのか、忸怩たる思いがありました。
そこで、物語とともに、ボンボニエールを実際にご覧いただく展覧会を、学習院大学史料館で企画しました。その名も「ボンボニエールが紡ぐ物語」展。あのボンボニエールも、このボンボニエールも展示したいと、妄想は広がるのですが、何しろ、当館展示室は「猫の額」ほどの広さ。いくら小さなボンボニエールとはいえ、そんなには並べられないという悲しい現実があります。それでも、厳選100個余のボンボニエールを、物語(こちらも短縮版となりますが……)と共にお披露目する運びとなりました。そして、この展覧会について、橋本麻里さん(永青文庫副館長)と私が語り合う動画「物語の玉手箱 ボンボニエール」も配信いたします。今から収録が楽しみです!
また、この展覧会では、2019年に発見された「定家本 源氏物語『若紫』」(大河内家所蔵)という超貴重な作品をお借りすることができ、関東圏で初めて公開する運びとなりました(予定展示期間9月13日~30日)。
小さな展示室に盛りだくさんの展覧会です。
今回は物語のおさらいを兼ねて、この展覧会の概要をご紹介します。
現在の皇室にも続くボンボニエール、その最初の物語は、明治22年(1889年)に始まります。明治維新の後、皇室も西欧化が求められます。洋装や洋食、外賓接遇など西欧文化を受け入れ、同年2月11日、大日本帝国憲法発布式を迎えました。東アジアで最初の立憲国家となったことを国内外に示すため、前年に竣工したばかりの明治宮殿で、大規模な儀式と饗宴が開催されました。その宮中晩餐会では、食後のプティフール(一口サイズのお菓子)が皿や盆ではなく、銀の箱や美しい織りの袋入りで配られました。それが、皇室初のボンボニエール。菊御紋と「二五四九 紀元節」銘が入った様々な容器が1400個用意されたのです。
明治27年(1894年)の天皇・皇后の銀婚式には、後に帝室技芸員となる鈴木長吉により、銀製オリジナルデザインでボンボニエールが作られ、ここから、皇室の慶事の際には、それにふさわしい意匠で作られたボンボニエールが次々に登場することになります。
特に「即位の礼」の際には、伝統意匠に則ったボンボニエールが数種類、数千個作られました。大正、昭和はもちろん、平成、そして、令和でも作られています。令和の「即位の礼」は、「立皇嗣の礼」までを関連儀式としており、「ボンボニエールの物語」の最終回(vol.50)でご紹介したように、コロナ禍で開催されなかった内宴用のボンボニエールも用意されていました。
外国と友情を育むことは、皇室の大事な公務。明治、大正、昭和と、その時代時代で絆が紡がれました。このコーナーでは、特に英国との深いつながりに関わるボンボニエールをご紹介します。
ボンボニエールの魅力は、何と言っても、その可愛いらしさ。本展のアイコンとなっている「犬張子形」をぜひ間近でご覧ください。可愛いだけではない、技巧の素晴らしさにも、お気づきいただけると思います。
→【ボンボニエールの物語vol.25】とっておき! 可愛いボンボニエールの物語
→【ボンボニエールの物語vol.12】昭和8年 上皇さまご誕生の物語
皇室の慶事に際し、ふさわしいデザインで制作されるボンボニエール。これは、どなたがプロデュースしたのでしょうか? その解答と共に、様々なお印、意匠をお楽しみください。
→【ボンボニエールの物語vol.20】皇室・皇族 お印の物語(その1)
ボンボニエールの様々な形。そこには、日本の伝統や工芸技術力の高さを外国に広報する役割もありました。ボンボニエールは手のひらの上の外交官でもあったのです。
→【ボンボニエールの物語vol.31】おもてなし 伝統の形の物語
ボンボニエールと言えば、「銀」というイメージですが、実は様々な素材で制作されています。本展では、漆、陶磁器、七宝、プラスチックのボンボニエールを展示します。彩り豊かなボンボニエールをご覧ください。
そして、今回の特別展示「源氏物語」にちなんで、源氏物語に登場しそうな(?)ボンボニエールも展示いたします。
このように種々取りそろえて、皆さまをお待ちしております。私も会場をうろうろしているかもしれませんので、どうぞ、お声がけください。お会いできることを楽しみにしております。
そのためには、コロナの感染がさらに拡大しないことを祈ります。
第93回学習院大学史料館講座
≪対談≫「物語の玉手箱 ボンボニエール」
橋本麻里(永青文庫副館長)×長佐古美奈子
※ウェブ上にて、10月より動画配信予定
プロフィール
学習院大学史料館学芸員
長佐古美奈子
学習院大学文学部史学科卒業。近代皇族・華族史、美術・文化史。特に美術工芸品を歴史的に読み解くことを専門とする。展覧会の企画・開催多数。「宮廷の雅」展、「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品」展、「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」展など。著作は、単著「ボンボニエールと近代皇室文化」(えにし書房、2015年)、共著「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」(青幻舎、2018年)、編著「写真集 明治の記憶」「写真集 近代皇族の記憶―山階宮家三代」「華族画報」(いずれも吉川弘文館)、「絵葉書で読み解く大正時代」(彩流社)など。
開催概要
日程
2021.9.13〜2021.12.3
「ボンボニエールが紡ぐ物語」展
★来場者が多い場合は、新型コロナウイルス感染防止のため、展示室への入室を制限することがあります。
★感染状況により、開催方法・開催日時が急に変更される場合があります。
★最新情報、感染症対策などは
でご確認ください。
学習院大学史料館展示室
東京都豊島区目白1-5-1
学習院大学北2号館1階
入場無料
休館日
土曜、日曜、祝日
特別開室日:9月20日(月・祝)、9月23日(木・祝)
開館時間
平日12:00~15:00
※9月中は11:00~15:00
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