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2021.3.10

【継承 祈りの舞 vol.4】鎮魂 郷土の復興見つめ~岩手・大船渡 浦浜念仏剣舞

東日本大震災から10年を迎える2021年3月に行われる特別公演「祈りのかたち」。出演者らを紹介する特集「継承 祈りの舞」の第4回は、津波による被害を乗り越え、鎮魂の祈りを込めて活動を続ける東北の郷土芸能「浦浜念仏剣舞」を紹介する。

津波を乗り越えてきた浦浜念仏剣舞保存会。高校生や大学生ら若手が東北の復興を担う(2月13日、岩手県大船渡市で)=竹田津敦史撮影

日本博皇居外苑特別公演「祈りのかたち」に出演する岩手県大船渡市の三陸伝統の郷土芸能「浦浜念仏剣舞けんばい」は、東日本大震災による津波で稽古場や道具が流されるなど大きな被害を受けた。

あれから10年、多くの人の支援を受けて復活し、各地で演舞を披露してきた。被災者を勇気づけ、復興を後押しする郷土芸能として生き続けている。

■江戸期から
衣装稽古に励む保存会のメンバー(岩手県大船渡市で)

2月13日、三陸海岸を望む大船渡・越喜来おきらい地区の公民館で保存会の稽古が行われていた。笛や太鼓に合わせ、お面を付けた約10人のメンバーが激しく頭を振り、剣を振りかざして舞い踊る。途中、踊り手たちが円陣を作り、一人ずつ焼香を行うのがこの舞の特徴だ。

江戸時代から死者を弔うための習わしとして念仏剣舞が伝承され、8月には初盆を迎えた家々を供養して回った。だが、過疎化やメンバーの減少により幾度となく途絶えかけてきたという。

津波で被災した越喜来地区を見つめる古水さん。若手や子どもたちへの指導に力を入れてきた(岩手県大船渡市で)

危機感をもった地元有志が保存会を作ったのは1972年。現会長の古水力さん(75)を中心に、若者や子どもたちへの指導に力を入れてきた。

「もう適当に休んだらどうかという声もあったが、子どもたちが大人に交じって踊る姿を見て、周囲の意識も変わってきた」。若い担い手を増やし、地域に根を張る大切さを強く感じたという。

■津波で全壊
三陸海岸を望む未音崎湾望台で舞を披露する若手メンバーたち(岩手県大船渡市で)

だが、震災で再び転機が訪れる。地区で多数の犠牲を出した大津波により、稽古場は全壊。衣装や太鼓などの道具類もほとんど流されてしまった。「もう続けるのは無理ではないか」。そんな思いもよぎった。

ピンチを救ったのは、全国の伝統芸能に関わる団体や個人からの支援だ。古水さんたちは「念仏剣舞は鎮魂の舞である」との原点に立ち返り、震災から100日後の6月18日にはがれきの中を行進して犠牲者を供養した。

今では復興への祈りのシンボルとして各地で踊る機会も増えた。震災を乗り越え、郷土の芸能を受け継ぐことの意義をかみしめた古水さん。3月13日の公演に向けて「支えてくれる多くの人に感謝を込めながら、見る人の心に響くような踊りを披露したい」と話した。

■舞い戻った面 
津波で流されながらも舞い戻った面は、地区の伝承館で大切に保管されている(岩手県大船渡市で)

津波で流された面や衣装といった道具類のうち一部は、がれきの中から戻ってきた。これらは越喜来地区の高台に保存会の活動拠点として建設した「浦浜民俗芸能伝承館」に大切に保管され、今も使われている。

20枚ほどあった面のうち、古水さんたちの手元に戻ってきたのは5枚。破れた半纏はんてんや穴のあいた太鼓が海岸に打ち上がっているのも後で見つかった。

「津波で何もかも失った中で、一つでも戻ってきたのはありがたかったし、うれしかった」と古水さんは振り返る。

(2021年3月7日読売新聞朝刊より掲載)

日本博皇居外苑特別公演 ~祈りのかたち~公式サイトはこちら

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