東日本大震災から10年を迎える2021年3月に行われる特別公演「祈りのかたち」。出演者らを紹介する特集「継承 祈りの舞」の第4回は、津波による被害を乗り越え、鎮魂の祈りを込めて活動を続ける東北の郷土芸能「浦浜念仏剣舞」を紹介する。
日本博皇居外苑特別公演「祈りのかたち」に出演する岩手県大船渡市の三陸伝統の郷土芸能「浦浜念仏
あれから10年、多くの人の支援を受けて復活し、各地で演舞を披露してきた。被災者を勇気づけ、復興を後押しする郷土芸能として生き続けている。
2月13日、三陸海岸を望む大船渡・
江戸時代から死者を弔うための習わしとして念仏剣舞が伝承され、8月には初盆を迎えた家々を供養して回った。だが、過疎化やメンバーの減少により幾度となく途絶えかけてきたという。
危機感をもった地元有志が保存会を作ったのは1972年。現会長の古水力さん(75)を中心に、若者や子どもたちへの指導に力を入れてきた。
「もう適当に休んだらどうかという声もあったが、子どもたちが大人に交じって踊る姿を見て、周囲の意識も変わってきた」。若い担い手を増やし、地域に根を張る大切さを強く感じたという。
だが、震災で再び転機が訪れる。地区で多数の犠牲を出した大津波により、稽古場は全壊。衣装や太鼓などの道具類もほとんど流されてしまった。「もう続けるのは無理ではないか」。そんな思いもよぎった。
ピンチを救ったのは、全国の伝統芸能に関わる団体や個人からの支援だ。古水さんたちは「念仏剣舞は鎮魂の舞である」との原点に立ち返り、震災から100日後の6月18日にはがれきの中を行進して犠牲者を供養した。
今では復興への祈りのシンボルとして各地で踊る機会も増えた。震災を乗り越え、郷土の芸能を受け継ぐことの意義をかみしめた古水さん。3月13日の公演に向けて「支えてくれる多くの人に感謝を込めながら、見る人の心に響くような踊りを披露したい」と話した。
津波で流された面や衣装といった道具類のうち一部は、がれきの中から戻ってきた。これらは越喜来地区の高台に保存会の活動拠点として建設した「浦浜民俗芸能伝承館」に大切に保管され、今も使われている。
20枚ほどあった面のうち、古水さんたちの手元に戻ってきたのは5枚。破れた
「津波で何もかも失った中で、一つでも戻ってきたのはありがたかったし、うれしかった」と古水さんは振り返る。
(2021年3月7日読売新聞朝刊より掲載)
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