能の衣装「能装束」が美術館で展示されていても、「どうやって見たらよいのかわからない」という方は多いのではないでしょうか。そこで今回は、能装束の鑑賞が楽しくなるエピソードを
実際に能を見に行くと、大きな松が背景に描かれただけのシンプルな空間で、能役者の動きも静かですよね。そんななか、華麗な能装束は、舞台に咲く花のようです。
実は能装束には、単なる衣装以上の役割があります。というのも、着物の種類やコーディネート、着付け方によって、その役柄の身分や年齢、性格などを示しているのです。情報が極端に抑えられた能の世界で、観客は能衣装からたくさんの情報を読み取ることができるのですね。
能装束は、国の文化財に指定されていたり、国内外の美術館に所蔵されていたり、桃山時代にまでさかのぼるものもあり、名品ぞろいです。それほど芸術性が高いのはなぜなのか。その秘密を知るために、能の歴史をたどりましょう。
能のもととなったのは奈良時代に中国から伝わった「
面白いことに、舞台を鑑賞した武士や貴族は、能役者に褒美として金銭や品物のほか、自分の着物を脱いで与えたそうです。おひねりの豪華版ですね。今も能舞台の正面に小さな階段がついていますが、これは役者が褒美を受け取るために作られた名残だとか。
室町時代半ばに3日間行われた、とある舞台では、将軍着用のものをはじめとする250
桃山時代には派手好きの豊臣秀吉の
こうして江戸時代中期には、今に受け継がれる多種多様な能装束の形式が出そろったといわれます。代表的なものをご紹介しましょう。
とりわけ重厚で華やかな能装束といえば「
唐織の文様は布から少し浮いて見えますが、
唐織のなかでも、赤い糸が使われているものは「
「
鱗箔を使う演目のひとつに、源氏物語を題材とした「
「葵上」にはもうひとつ面白い演出があります。葵上役の役者はおらず、舞台上に女性用の着物を置くだけでその存在を表すのです。そぎ落とされた美を追求する能らしい演出だと思いませんか?
能装束の中で最も古い歴史を持つのは「
狩衣の模様は大ぶりで力強く、舞台映えします。能を愛した勇壮な武将たちの好みが反映されているのでしょうか。
狩衣を用いる演目のひとつに「
その老人が着る狩衣の文様は「
さて、みなさんも実際に能装束を見てみたくなったのではないでしょうか。
大倉集古館で2020年1月26日(日)まで開催中の新春特集展示「能と吉祥 寿―Kotohogi―」では、唐織や狩衣の名品がご覧いただけます。この機会にぜひお出かけください。
また、舞台で使われている能装束をじかに鑑賞するチャンスがあるのをご存じですか? 各地の能楽堂で夏に行われている虫干しです。着物に虫がつかないよう、衣装をずらりと干して風に当てる際に、一般公開しているのです。興味のある方は各地の能楽堂にお問い合わせください。
大倉集古館 2019年12月24日(火)~2020年1月26日(日)
プロフィール
美術ライター、翻訳家、水墨画家
鮫島圭代
学習院大学美学美術史学専攻卒。英国カンバーウェル美術大学留学。美術展の音声ガイド制作に多数携わり、美術品解説および美術展紹介の記事・コラムの執筆、展覧会図録・美術書の翻訳を手がける。著書に「コウペンちゃんとまなぶ世界の名画」(KADOKAWA)、訳書に「ゴッホの地図帖 ヨーロッパをめぐる旅」(講談社)ほか。また水墨画の個展やパフォーマンスを国内外で行い、都内とオンラインで墨絵教室を主宰。https://www.tamayosamejima.com/
開催概要
日程
2019.12.24〜2020.1.26
大倉集古館
東京都港区虎ノ門2-10-3
一般、大学生、高校生 500円
休館日
毎週月曜日(祝日は開館し、翌平日は休館)
12/28~31、1/1、1/6、1/14、1/20は休館
開館時間
10:00~17:00(入館は16:30まで)
お問い合わせ
TEL:03-5575-5711(代表)
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