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2020.1.29

【ボンボニエールの物語vol.14】皇室 新年の物語 その2

皇室のお正月

前回お話ししたように、皇室の新年行事・祝宴にまつわるボンボニエールが見当たらない。そこで今回は「羽子板形ボンボニエール」に登場してもらうこととした。

羽子板形桐桃文(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)

このボンボニエールは、北白川宮きたしらかわのみや佐和子さわこ女王が東園ひがしその基文もとふみと結婚した後、昭和10年(1935年)1月9日の御里開おさとびらきの際のボンボニエールである。

「御里開」とは耳慣れない言葉であるが、里帰りのことである。婚礼では「終了」「帰る」等の言葉は忌み言葉として避けるため、「お開き」という言葉が使われる。 時期が1月なので羽子板形とし、文様には佐和子女王のお印である桃があしらわれている。7.9cm×3.1cmの可愛かわいらしい銀製の羽子板である。

皇室のお正月「御爪切」

皇室のお正月は各種行事が目白押しで、大変お忙しい。公式な行事だけでなく、御内邸で行われる行事も多くある。その中の一つ「七草の御爪切」について、お話ししよう。

学習院大学史料館では、平成18年(2006年)に高松宮家よりゆかりの品々の御寄贈を受けた。多くは高松宮宣仁のぶひと親王の学習院時代・御幼少時の御道具類であったが、その中には一般にはなじみのないものもいくつかあった。その一つが「御爪箱おつめばこ」であった。

桐鳳凰蒔絵爪箱 宣仁親王(高松宮)所用 (学習院大学史料館蔵)

鳳凰ほうおう文が描かれた漆塗りの小さな箱の中に、ハサミや筆、袱紗ふくさ、そして紅猪口べにちょこが収められており、一見すると化粧道具の箱である。しかし、宣仁親王は男の子……。これは何なのだろうかと思っていたところ、当時当館の客員研究員でいらした今上陛下が一言「御爪箱ですね!」とおっしゃったのである。「おつめばこ? それは何ですか?」ということで、以下は当館のミュージアムレターに陛下がご執筆された文章(を2011年開催の「宮廷の雅」展図録に再録した際、陛下自ら訂正されているので、そちら)をご紹介いたしましょう。

「御爪箱」

爪を切る道具を納めた漆塗りの方形の箱。皇族が幼少時(7歳頃まで)に使用する。箱は二つで1セットで、中には爪切り用のはさみ、小町紅、紅筆、筆、紫ふくさ、蓋付陶器などが納められている。通常、爪切りははさみを用いる。またはさみは手の爪用と足の爪用を分けて使用する。高松宮の御爪箱のはさみにはそれぞれ「上」、「下」の印が付されているが、これは、「上」は手、「下」は足の意味であろう。ふくさの上で爪を切り、切り終わった後にそれぞれの指に筆で紅をつける。紅をつけるいわれは定かではないが、消毒の意味があったものとも思われる。なお、皇室では、1月7日の七草の日に七草を入れた水に手を浸し、その年最初の爪切りを行う習慣がある。

――という、何ともみやびな風習なのである。この爪の先に紅を塗る風習、いまではネイルアートを思い起こすが、江戸時代には爪紅粉つまべにとよばれ、御所周辺の風習として広く行われていたようである。紅を塗るのは魔けの意味もあったという。

御所人形 山階芳麿所用(学習院大学史料館蔵)

御所人形ごしょにんぎょう」とよばれる人形をご存じだろうか。木彫りの上に胡粉ごふんを塗り重ね、磨いて作られた、大きな頭・白い肌・2頭身か3頭身の人形で、裸の幼児の姿であることが多い。江戸時代、西国の大名が参勤交代で京都へ立ち寄り、京都の御所や公家に贈り物をした際に、その返礼として度々用いられた。当時は「お土産人形」などと呼ばれていたが、明治末頃から「御所人形」と呼ばれるようになった。

明治~大正期には御所人形を台の上に載せた「御台人形おだいにんぎょう」が、天皇、皇后から皇女への下賜品とされた。現在でも京土産の代表的な人形として、製作され続けている。そして、この「御所人形」のつま先に、なんと紅がさしてあるものがあるのである。

皇室だけに続くこのような大小様々な伝統、これからも長く続けていっていただきたいと切に願う。

天皇陛下が執筆された「学習院大学史料館ミュージアムレター」はこちら

⇒ 学習院大学史料館ミュージアムレターNo.3

長佐古美奈子

プロフィール

学習院大学史料館学芸員

長佐古美奈子

学習院大学文学部史学科卒業。近代皇族・華族史、美術・文化史。特に美術工芸品を歴史的に読み解くことを専門とする。展覧会の企画・開催多数。「宮廷の雅」展、「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品」展、「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」展など。著作は、単著「ボンボニエールと近代皇室文化」(えにし書房、2015年)、共著「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」(青幻舎、2018年)、編著「写真集 明治の記憶」「写真集 近代皇族の記憶―山階宮家三代」「華族画報」(いずれも吉川弘文館)、「絵葉書で読み解く大正時代」(彩流社)など。

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