2019.11.1
「即位礼正殿の儀」は10月22日に執り行われ、同日夜に「饗宴の儀」が催された。平成の即位の礼より和食のみとなった食事のメニュー(平成と令和のメニューは全く同じだった)であるが、ワインは赤白ともに明治以来の伝統となっている、フランス・ボルドー産が振る舞われた。そして、その列席者約400人に、令和初のボンボニエールが贈られたのである。
御即位を記念する令和初のボンボニエールは、純銀製で円形、蓋表に左向きの鳳凰が浮き彫りにされ、鳳凰の顔の横に金の皇室菊御紋が配されている。横に御紋が来るデザインは斬新。鳳凰文様もシンプルで好感度が高い。鳳凰は徳の高い君子が天子の位につくと出現すると言われる中国古代の想像上の瑞鳥(めでたい鳥)。鳳が雄で凰が雌という。
制作にあたったのは、明治13年(1880年)創業の宮本商行。各種銀製品を扱う老舗である。ボンボニエールの制作事例も数多く、ボンボニエールをひっくり返すと「純銀 宮本造」というおなじみの銘がよくみられる。
宮本商行は、平成の御即位の際のボンボニエールも制作している。平成の御即位ボンボニエールも、やはり丸形鳳凰文。こちらは鳳凰が右向きであり、令和のボンボニエールと並べると鳳凰が向き合い一対となるのである。
各国元首クラスが出席した饗宴の儀(10月22日)のボンボニエールは純銀製であったが、以後3回の饗宴の儀に配られたものは銀鍍金(メッキ)製と推測される。宮内庁ホームページ中の平成31年3月4日の入札公告に、同年(令和元年)9月30日納期の「御紋付真鍮製銀鍍金仕上ボンボニエール 2150個」が公示されている。つまり、本体は真鍮で、表は銀メッキ。残念ながら仕様及び規格などは「当庁仕様書のとおり」とあるのみで、開示されていない。そして6月11日の落札者などの公示には、宮本商行が「12,243,800円」で落札したことが示されているのである。
一つ当たり5695円。ここに金平糖を入れ、箱もそろえての納入である。制作者のご苦労と付加価値を鑑みれば、十分お値打ちがある、と思うのは私だけであろうか。
プロフィール
学習院大学史料館学芸員
長佐古美奈子
学習院大学文学部史学科卒業。近代皇族・華族史、美術・文化史。特に美術工芸品を歴史的に読み解くことを専門とする。展覧会の企画・開催多数。「宮廷の雅」展、「有栖川宮・高松宮ゆかりの名品」展、「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」展など。著作は、単著「ボンボニエールと近代皇室文化」(えにし書房、2015年)、共著「華ひらく皇室文化-明治宮廷を彩る技と美―」(青幻舎、2018年)、編著「写真集 明治の記憶」「写真集 近代皇族の記憶―山階宮家三代」「華族画報」(いずれも吉川弘文館)、「絵葉書で読み解く大正時代」(彩流社)など。
0%