近世水墨画の最高傑作とされる長谷川等伯(1539~1610年)筆の国宝「松林図
立ちこめる霧の中で、濃淡をもって描き分けられた松林。奥には雪山も見える。はたして、この絵の舞台は……。東京国立博物館・学芸研究部調査研究課の松嶋雅人さんの解説をもとに探ってみたい。
松林図屏風で描かれた「場所」についても、実はよく分かっていない。
長谷川等伯は能登・七尾(石川県)の出身。このため、「郷里の能登半島にある松林を描いたのではないか」と言う人もいる。
「TSUMUGU Gallery」の「松林図屏風」>「左隻を見る」の右上部分をクローズアップするとうっすらと見える雪山は、北陸を代表する山・白山だとの説もある。
だが、松嶋さんはこうした見方を否定する。
「この絵はもともと、寺社の発注により京都で描かれたものと考えられます。多大なお金をかけて注文された絵なので、画家が自分の関連した場所を描くというのはあり得ない。和歌にうたわれたような名所と考えるのが自然です」
「松」に関係する名勝と言えば、三保の松原か、天橋立か。その場合、屏風の右上に見える山が問題になるが、松嶋さんは「富士山だと思う」と推測する。
そうだとすれば、三保の松原が有力になるのだが――。いずれにせよ、断言はできないという。
ちなみに、等伯がこの絵を描いたのは50代半ばの頃。72歳で江戸に下って亡くなるまで、実際に富士山は見ていなかったと思われるという。雪山がどことなく富士の形に見えないのは、そのせいだろうか。
<vol3.「屏風の左右が、実は逆だった!?」に続く>
高精細のデジタル鑑賞を楽しめる「TSUMUGU Gallery」では、松林図屏風の魅力に迫るストーリーとともに、細部までクローズアップして作品の魅力を味わえます。ぜひご覧ください。
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/gallery/
東京国立博物館研究員・松嶋さんがとびきり好きな「推し」の美術作品を紹介する「私の偏愛美術手帳」も公開しています。美術館の楽しみ方といった興味深い話が盛りだくさん。シリーズを通して、ぜひ日本美術の面白さを再発見してください!
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