国宝「法華経」(浅草寺経)巻第二 巻首 10巻のうち1巻 平安時代・11世紀、東京・浅草寺蔵
平安時代に遡る装飾経の屈指の名品。そのいぶし銀ならぬ「いぶし金」、淡い光の靄が揺曳する紙面に、会場で飽きず眺め入った。
天台宗の根本経典である「法華経」が、その後の日本の文化に与えた影響の広さ、深さを思えば、すべての源泉ともいえる経巻の美しく荘厳な姿に感慨を覚えずにはいられない。
現在もスパイスとして用いる丁子(クローブ)を煮出した汁の防虫効果を期待し、その汁を噴霧して染めた料紙に、金泥で界線を引き、金の小切箔を全面に散らすことで、経典の文字があたかも光の中から浮かび上がるような画面が完成する。さらに緑・白・茶・淡紅の絹糸を組んだ平打ち組み紐の巻き緒、紫檀の材に蝶や鳥の文様の螺鈿を入れた軸端に至るまで、心を尽くして整えられた装飾に、教えに寄せる心の深さが顕れている。
(橋本麻里 美術ライター、永青文庫副館長)
東京会場は11月21日まで!
特別展「 伝教大師1200年大遠忌記念 最澄と天台宗のすべて」は東京国立博物館(上野)で11月21日まで開催中。詳しくは、ホームページ(https://tsumugu.yomiuri.co.jp/saicho2021-2022/)で。