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2023.9.8

【皇室の美】板谷波山「葆光白磁枇杷彫文花瓶」― 白磁素地に枇杷 格調高く

皇室と近代の陶磁 三の丸尚蔵館名品展

「葆光白磁枇杷彫文花瓶」 板谷波山 宮内庁三の丸尚蔵館収蔵

今年、没後60年にあたる板谷いたや波山はざんは、皇室ゆかりの作品を制作した輝かしい業績を積み重ね、1929年(昭和4年)、陶芸家として初めて帝国美術院会員となった。さらに34年(昭和9年)には帝室技芸員にも任命され、作家として最高の名誉に浴した。

波山(本名・嘉七)は、1872年(明治5年)、茨城県真壁郡の下館城下(現・筑西市)に生まれ、東京美術学校(現・東京芸術大学)で高村光雲に彫刻を学んだ。石川県の教員を経て、1903年(明治36年)に、東京高等工業学校(現・東京工業大学)で教鞭きょうべんを執る傍ら、陶芸家として独立した。

12年(大正元年)には、のちに波山の代表的な技法として知られる「葆光ほこう彩磁さいじ」を生み出した。「葆光彩磁」とは、彫刻した文様に着彩し、その上からつや消しの「葆光釉ほこうゆう」を施すことで穏やかな色合いとなる、洗練された技法である。

高い芸術性と技術が評価され、24年(大正13年)の皇太子・裕仁親王と良子妃のご成婚、28年(昭和3年)の昭和天皇の即位の礼など、皇室の慶事が続く中で、波山は各所からの依頼で献上品の制作にあたった。

この頃、波山は東洋陶磁の最高峰である中国の官窯かんように関心を持ち、「彩磁」ばかりでなく、「青磁」や「白磁」など単色釉の作品を数多く手がけた。

本作「葆光白磁枇杷びわ彫文花瓶」はそのうちのひとつで、28年の秩父宮雍仁やすひと親王のご成婚の折に東京府より献上された品である。

中国の伝統的な吉祥文様である枇杷が選ばれ、波山が得意とした薄肉彫うすにくぼりによって、豊かに実った枇杷が写実的に表現されている。白磁の素地に彫り表した枇杷の上から、光沢を抑えた柔らかい風合いの葆光釉で、格調高く仕上げられている。

(宮内庁三の丸尚蔵館研究官 芳澤直之)

◇皇室と近代の陶磁 三の丸尚蔵館名品展

会期】9月16日(土)~12月10日(日) 月曜と9月19日、10月10日は休館。9月18日、10月9日、11月13日は開館
会場】茨城県陶芸美術館(茨城県笠間市)
主催】茨城県陶芸美術館、宮内庁
特別協力】文化庁、紡ぐプロジェクト、読売新聞社
問い合わせ】0296・70・0011

(2023年9月3日付 読売新聞朝刊より)

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