京都・知恩院所蔵の国宝「
阿弥陀 二十五菩薩来迎図 (早 来迎)」(縦1・45メートル、横1・55メートル)は、鎌倉時代の仏画の傑作として知られる。「紡ぐプロジェクト」の一環として現在、85年ぶりの修理が京都国立博物館の修理作業施設で進められている。同博物館の大原嘉豊 ・保存修理指導室長に、作品の魅力や修理の意義について聞いた。
阿弥陀如来による極楽へのお迎えの場面を描いた「来迎図」のうち、この作品のように「早来迎」と呼ばれる絵は、救いの迅速さを強調するために対角線構図で急角度をつける表現が特徴で、鎌倉後期に流行した。縦長の長方形の画面が多い。
この作品がほかの「早来迎」と一線を画しているのは、正方形に近い画面で、三次元のイリュージョンをつくり出す絵画的表現を目指した点にある。正方形の画面に生まれた余白に自然風景を描き、平面に奥行きを持った情景が表現された。西洋絵画の伝統基準にも沿う近代性を持った名品で、職人から芸術家へと絵画の担い手が変遷していく時代の息吹を感じさせる。
1934年に実施された前回の修理から80年以上が過ぎた。経年によって掛け軸には横の折れが生じ、本紙を支える
修理は、所有者や所有者を支える人々が作品の価値を共有し、現在の価値判断を未来に伝える重要な機会になる。文化財を通じて私たちは過去と未来に
文化財保護法には、修理は所有者が行うことが規定されているが、多くの場合、寺社などの所有者だけでは費用を負担しきれない。さらに、修理に不可欠な伝統産業も後継者不足に悩む。細く長く、少しずつ公的支援を増やしながら、修理業者や修理に必要な素材の生産・加工業者を育成していく必要がある。(談)
(2020年5月3日付読売新聞朝刊より掲載)
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