金の紐で束ねられた色とりどりの熨斗が、ゆるやかに弧を描きながら肩から全体に広がる、華やかで堂々とした意匠の振り袖である。おそらく富裕な町人が婚礼衣裳として誂えたもので、嫁ぎ先に熨斗を付けて娘を送り出すという、洒落た趣向なのだろう。
絞り染めで紅の地色と熨斗部分を染め分け、熨斗の一筋一筋に、友禅染・型染め・刺繡・ 摺箔といったとりどりの技法を駆使して、鳳凰・松竹梅・菊・宝尽くしなど、各種の吉祥文様が詰められている。きものの製作は、扱う工程による分業で成り立っているので、この振り袖も多くの工房の手を経て完成されたことだろう。
きものを中心に扱う古美術商で、自身も染織品のコレクターであった野村正治郎の旧蔵品である。売却依頼を断ったにもかかわらず、この振り袖があまりにも気に入ったので京都への贈り物にするとして、高額の小切手を郵送してきたアメリカの大富豪・ロックフェラー2世の粋な計らいに応え、野村から友禅染を扱う業界団体であった友禅史会へ寄贈された。
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