鯉は日本の原風景の里山に欠かすことのできない身近で親しまれている魚です。古くから絵画や工芸作品などの題材として慶事の吉祥文様としても多く描かれています。多くの作品が現存している中で、如何にこの題材を独自の視点で捉え制作するかが課題でした。天板面には黒漆で彫刻的な高上げで波文を表現し、側面の三匹の鯉と水流は赤と青に色分けした微塵貝を蒔き込み、胴擦りまで行いました。鯉の上面には更に金平目粉で鱗などを描き完成に至りました。
田口 義明(1958- ) Taguchi Yoshiaki
東京都生まれ。蒔絵の父・田口善国及び髹漆の増村益城に師事した。伝統工芸を主体に活動し、日本伝統工芸展で1993年及び1997年奨励賞、1996年優秀賞を受賞した。2002年MOA岡田茂吉賞展優秀賞受賞。身近な動物や植物を大胆に意匠化し、色彩の鮮烈な感覚と蒔絵や螺鈿の柔軟な思考の表現方法を駆使して生命の煌めきを表している。《乾漆青貝蒔絵飾箱 鯉》は、箱の天板に高上げで大きな波の筋文が表され、側面に細かな青貝による水流に悠然と泳ぐ鯉が表され、赤みの細かな貝を蒔いた上に金粉で鱗をきらりと光らせている。埼玉県伊奈町在住。
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