歌舞伎女形の最高峰で、人間国宝の坂東玉三郎は、役者としてだけでなく、舞台演出家や映画監督としても研ぎ澄まされた感性を生かし、才能を発揮してきた。今年〔2023年〕は、古典歌舞伎以外も多彩な舞台作品を関西で手がけ、その演出力が改めてクローズアップされた1年だった。玉三郎が創作への思いを語った。(編集委員 坂成美保)
大阪松竹座(大阪市中央区)の100周年記念公演の幕開けとして、1月に上演された太鼓芸能集団「鼓童」との「幽玄」では、出演と演出を兼ねた。能「羽衣」「石橋」「道成寺」をモチーフに、ジャンルの垣根を越え、静と動の緩急、スリリングな即興味を生かした演出で観客を魅了した。
玉三郎は、長く愛される舞台作品に不可欠な要素として「物語性」「優れた構成」「音楽性」「卓抜した個人芸」を挙げる。演出を振り返り、「シンプルってことでしょうか。無駄のない演出を心がけています。余分なものをそぎ落としていく作業ですね」と語る。
劇場空間への憧れが活動を支えてきた。「劇場はお客さまが、非日常の悠久の時間の流れを感じ、異空間に入っていける場所。幕が開けば物語の世界に引き込まれ、終わればまた現実に戻っていく」
6月に京都・南座、10月に大阪松竹座で上演した演出作「星降る夜に出掛けよう」にも、幼い頃から培った感性が生かされた。
「小さい頃からプラネタリウムが大好きで通いました。何もない天井に、音楽とともに星空が広がり、動いていくと、ワーっとその美しさに吸い込まれていくんですね」
ジョン・パトリック・シャンリィの短編戯曲とサンテグジュペリの「星の王子さま」を再構成し、演出だけでなく翻案・脚本・作詞も手がけた。砂漠の風景に流れる「コーリング・ユー」や井上陽水の「カナリア」、自ら訳詞を手がけた「マック・ザ・ナイフ」などが舞台を彩り、繊細な照明で「星空の美しさ」を再現。若手人気俳優たちが詩的なせりふを操った。
孤独を抱えた青年同士が心を通わせる瞬間を捉えた作品は「人間に根源的に備わっている孤独を『詩』で流していくような演出を試みました。孤独っていいものだな、と思えるように。現代の若い俳優さんがどれだけ詩的な芝居をできるかの実験でした」。
8月の南座では、落語が原作の「怪談牡丹燈籠」で、新演出を披露。国宝・姫路城を借景にした平成中村座公演(5月)の泉鏡花作「天守物語」の演出でも、観客を幻想世界にいざなった。
今年はコンサートにも力を注いできた。「歌は音楽に乗せたせりふだと思っています」という。来年〔2024年〕1月には、大阪松竹座でコンサート「星に願いを」を開催する。
1月の連続3公演では、昨今の物価高騰に配慮し、自らの発案で1500~2000円の安価な席も用意した。「もっと足を運びやすい公演があってもいい。気に入ったら、もう一度足を運んでもらえる値段で、決して作品の質を落とすことなくお届けしたい」
◇ 坂東玉三郎・1月大阪松竹座公演
3~14日は「初春お年玉公演」。「口上」と舞踊「黒髪」「由縁の月」など。9日は休演日。18~20日は「はるのひととき」で落語家・春風亭小朝と共演。2人の「越路吹雪物語」と小朝の落語「芝浜」、玉三郎の地唄舞「雪」。26~28日は「星」をテーマにした曲を集めたコンサート「星に願いを」。「初春お年玉公演」には1500円のC席、「はるのひととき」とコンサートには2000円の4等席を設けた。(電)0570・000・489。
(2023年12月27日付 読売新聞夕刊より)
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