打ち寄せる波がみるみるうちに陸を覆い、大海原が広がる。
大阪松竹座で今月〔2023年7月〕上演されている「俊寛」のラストシーン。歌舞伎の大道具の一つ、波模様を布に描いた「
「平家物語」に描かれた史実「
能が、島に取り残される俊寛の孤独と絶望に焦点を当てたのに対し、近松は海女の
歌舞伎では、浪布と回り舞台のスペクタクルが映画のカメラワークさながらの視覚効果をもたらす。
仁左衛門の俊寛には、平家打倒を企てた政治犯の誇りと威厳がにじむ。3年に及ぶ島の生活で落ちぶれても、気骨と気品は失われていない。
俊寛、成経、
使者殺しの罪を負い、千鳥と仲間を船に乗せて島にとどまる俊寛。行く末には孤独な死が待っている。諦めたはずだが、いよいよ船出になると未練に惑い、一心不乱に船を追う。花道の上には浪布が敷かれ、海に見立てられる。本舞台で陸地を表した「地がすり」が取り払われた跡にも浪布。
俊寛は、花道の切り穴「すっぽん」に胸まではまり、両手を振りながら海中でもがく。荒波に後ずさる演出が多い中、仁左衛門は「海へ入るほうが未練の強さが出る」と
俊寛
平清盛への反逆の企てが発覚し、九州の南、鬼界ヶ島に流された俊寛僧都(仁左衛門)、丹波少将成経(松本幸四郎)、
平判官 康頼(嵐橘三郎 )の3人。流刑から3年がたち、成経は島の海女・千鳥(片岡千之助)と恋仲になっていた。都から使者・瀬尾太郎(坂東弥十郎)らを乗せた船が到着するが、赦免状には俊寛の名前だけが記されていない。困惑する俊寛に
丹左衛門尉 基康 (尾上菊之助)は平重盛 の計らいによって俊寛も許されることを告げる。しかし、都に残した俊寛の妻東屋 は平清盛の命で殺害されていた。大阪松竹座開場100周年記念の「七月大歌舞伎」は〔2023年7月〕25日まで。昼の部は「吉例寿曽我」「京
鹿子 娘道成寺」「沼津」。夜の部は「俊寛」「吉原狐 」。(電)0570・000・489。
(2023年7月12日付 読売新聞夕刊より)
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