今年〔2023年〕、芸能分野から新たに8人が「人間国宝」に認定される見通しとなった。このうち、古典落語の五街道雲助(75)、歌舞伎脇役の中村歌六(72)、人形浄瑠璃文楽人形遣いの吉田玉男(69)の3人に喜びの声を聞いた。
落語家では4人目の認定となる。「前のお三方(先代柳家小さん、桂米朝、柳家小三治)がもう雲の上の存在で、そこに私が加わるなんて、てんから頭になかった」と、低く渋い声でニコニコと語る。
江戸の風情を自然と全身にまとい、「
東京の下町、本所(墨田区)の生まれで、十代目金原亭馬生に入門。「何でもいいんだよ」という師匠の教えを素直に聞き、軽い滑稽噺から芝居仕立ての長編人情噺、時には新作落語まで幅広く手がけてきた。「古典落語の土俵の中で演じれば、どんな噺だってやれる」が持論だ。
三遊亭円朝の大作を始め、口演速記から、埋もれた作品を掘り起こして復活させた功績も大きい。「円朝師匠の速記にはかなり難しい言葉もあるのですが、掘れば掘るほど面白くなった」
(森重達裕)
「せがれ2人がびっくりするほど号泣してくれた。家族の力が後押ししてくれたことに、感謝しました」と、穏やかに喜びを語る。
二代目中村歌昇(四代目中村歌六追贈)の長男で1955年、四代目米吉を名乗り初舞台。81年に五代目歌六を襲名、明瞭なセリフ回しと滋味あふれる演技で、時代物から世話物、新作まで、老若男女を問わず演じてきた。
70年近い舞台人生で印象に残る演目として、2014年に座頭の中村吉右衛門(21年死去)らと作り上げた「
歌舞伎の今後を「時代に合わせて変わっていくことも大事、古くからあるものをしっかり継承していくことも大事。二つが両輪になっていけばいいのでは」と語る。「新作も復活狂言も、模範解答がない。絶えず客観的に見られる精神、目を持っていないと恐ろしい」と自らを戒める。
「お客様の反応が、我々の栄養素。やりたい役は山ほどある。一生修業、毎日初日の言葉を大事に、
(山内則史)
「夢のようで、地に足が着かず、ふわふわした状態で電車に乗りました」。外出先で、内定の知らせを受けた時の驚きと喜びをそう語る。
昭和・平成期の
「お前は不器用やな」。人間国宝だった初世によく言われた。器用でなくとも、稽古で地道に努力すれば、必ず上達することを教えてくれたのも師だった。
「熊谷陣屋」の熊谷次郎
初世の没後も、常に「師匠なら、どう思うか」と想像し、判断基準にしてきた。「先代が教えてくれた色んな言葉」に支えられて今がある。「よう頑張ったな。これから、もっと頑張らなあかんのやで」。優しい励ましの声が、耳に響いている。
(坂成美保)
他に人間国宝に認定される見通しとなったのは、能ワキ方の宝生欣哉(56)、宮薗節三味線の宮薗
(2023年7月25日付 読売新聞夕刊より)
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