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2023.7.27

人間国宝 喜びの声 古典落語・五街道雲助さん、歌舞伎・中村歌六さん、文楽人形遣い・吉田玉男さん

今年〔2023年〕、芸能分野から新たに8人が「人間国宝」に認定される見通しとなった。このうち、古典落語の五街道雲助(75)、歌舞伎脇役の中村歌六(72)、人形浄瑠璃文楽人形遣いの吉田玉男(69)の3人に喜びの声を聞いた。

古典落語 五街道雲助

古典落語の五街道雲助さん
古典落語の五街道雲助さん
責任感 出てきた

落語家では4人目の認定となる。「前のお三方(先代柳家小さん、桂米朝、柳家小三治)がもう雲の上の存在で、そこに私が加わるなんて、てんから頭になかった」と、低く渋い声でニコニコと語る。

江戸の風情を自然と全身にまとい、「噺家はなしかがあこがれる噺家」と言われる。芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章など多くの栄誉も受けたが、「それらは地道にやってきたご褒美としていただいたが、今度は違う。私らしくもないですが責任感みたいなものが少し出てきました。まぁ、肩書に気おされず、気負わずにやっていけたら」。

東京の下町、本所(墨田区)の生まれで、十代目金原亭馬生に入門。「何でもいいんだよ」という師匠の教えを素直に聞き、軽い滑稽噺から芝居仕立ての長編人情噺、時には新作落語まで幅広く手がけてきた。「古典落語の土俵の中で演じれば、どんな噺だってやれる」が持論だ。

三遊亭円朝の大作を始め、口演速記から、埋もれた作品を掘り起こして復活させた功績も大きい。「円朝師匠の速記にはかなり難しい言葉もあるのですが、掘れば掘るほど面白くなった」

桃月庵とうげつあん白酒はくしゅ、隅田川馬石ばせき蜃気楼しんきろう龍玉りゅうぎょくの弟子3人とも中堅の実力派として活躍し、自身も現役の第一線に立ち続ける。「落語に関しての知見、技量、感性は私のキャリアの中で今がベストだと思いますが、それを表現する体力は毎年落ちている。そのせめぎ合いですね」

(森重達裕)

歌舞伎脇役 中村歌六

歌舞伎脇役の中村歌六さん
歌舞伎脇役の中村歌六さん
一生修業、真摯に

「せがれ2人がびっくりするほど号泣してくれた。家族の力が後押ししてくれたことに、感謝しました」と、穏やかに喜びを語る。

二代目中村歌昇(四代目中村歌六追贈)の長男で1955年、四代目米吉を名乗り初舞台。81年に五代目歌六を襲名、明瞭なセリフ回しと滋味あふれる演技で、時代物から世話物、新作まで、老若男女を問わず演じてきた。

70年近い舞台人生で印象に残る演目として、2014年に座頭の中村吉右衛門(21年死去)らと作り上げた「伊賀越道中いがごえどうちゅう双六すごろく」の「沼津」「岡崎」を挙げた。「吉右衛門のお兄さんは、他の受賞の時も、我が事のように喜んでくださった。よかったなあという声を今回は聞けないと思うと、ちょっと寂しいですね」

歌舞伎の今後を「時代に合わせて変わっていくことも大事、古くからあるものをしっかり継承していくことも大事。二つが両輪になっていけばいいのでは」と語る。「新作も復活狂言も、模範解答がない。絶えず客観的に見られる精神、目を持っていないと恐ろしい」と自らを戒める。

「お客様の反応が、我々の栄養素。やりたい役は山ほどある。一生修業、毎日初日の言葉を大事に、真摯しんしに舞台を勤めていきたい」

(山内則史)

文楽人形遣い 吉田玉男

人形浄瑠璃文楽人形遣いの吉田玉男さん
人形浄瑠璃文楽人形遣いの吉田玉男さん
先代の言葉 支え

「夢のようで、地に足が着かず、ふわふわした状態で電車に乗りました」。外出先で、内定の知らせを受けた時の驚きと喜びをそう語る。

昭和・平成期の立役たちやく遣いの名人・初世吉田玉男(1919~2006年)に入門して55年になる。2015年に名跡を継いだ。

「お前は不器用やな」。人間国宝だった初世によく言われた。器用でなくとも、稽古で地道に努力すれば、必ず上達することを教えてくれたのも師だった。

「熊谷陣屋」の熊谷次郎直実なおざね、「仮名手本忠臣蔵」の大星由良助ゆらのすけ、「菅原伝授手習かがみ」の菅丞相かんしょうじょう……。重心を低くして、動きを抑えた「はら」の強い役柄を得意とする一方で、「曽根崎心中」の徳兵衛や「心中天網島」の治兵衛といった柔和な二枚目の役も受け継いできた。

初世の没後も、常に「師匠なら、どう思うか」と想像し、判断基準にしてきた。「先代が教えてくれた色んな言葉」に支えられて今がある。「よう頑張ったな。これから、もっと頑張らなあかんのやで」。優しい励ましの声が、耳に響いている。

(坂成美保)


他に人間国宝に認定される見通しとなったのは、能ワキ方の宝生欣哉(56)、宮薗節三味線の宮薗千佳寿弥せんかずや(72)、能シテ方の金剛永謹ひさのり(72)、狂言の茂山七五三しめ(75)、琉球古典音楽の大湾おおわん清之きよゆき(76)。

(2023年7月25日付 読売新聞夕刊より)

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