来年1月3日に国立劇場(東京・半蔵門)で開幕する「初春歌舞伎公演」を前に、劇場ロビーに飾られる「口上看板」が完成間近だ。建て替えのため来年秋にいったん閉場する初代の国立劇場にとって、これが最後の口上看板となる。
歌舞伎独特の文字「勘亭流」で書かれている口上看板は縦約1・8メートル、横約2・5メートルの大きなもの。国立劇場の担当者が考案した、作品のあらすじなどを説明した文章が筆書きされる。
初春公演は菊五郎劇団による「通し狂言 遠山桜天保日記」
尾上菊五郎さん率いる「菊五郎劇団」による2023年の初春公演では、時代劇「遠山の金さん」でおなじみの名奉行、遠山金四郎が主人公の「通し狂言 遠山桜天保日記」が上演される。口上看板はその外題のほかにも「待望再会初春賑」と横書きで大きく書かれ、その下に小さい文字で「世に贈りし数多の伎芸は世界に誇る国の宝」「大川にどんぶりこと水の音をば菊之助」などと、読み上げてみても楽しい、リズミカルな文章が縦書きでぎっしりと並んでいる。
2002年以来、同劇場の初芝居の口上看板を専ら担当してきた荒井三鯉さん(70)は、勘亭流の特徴について「『舞うがごとく』と言われています。踊りの手のように筆を動かすと、きれいに書けます」と説明する。また、興行の宣伝用の文字だけに「右肩上がり」「隙間なく」など、大入りを願って様々な縁起をかついでいるという。「(29年の再開場が)今から7年後というと、私も喜寿。その時もぜひ書かせていただければ」としみじみと語った。
三鯉さんは前回(22年)の初春公演から、弟子の荒井三都季さん(40)に文章の筆書きを任せている。11年に三鯉さんに弟子入りした三都季さんは、「角」という一文字も30秒かけて丁寧に筆書きしていた。「(前回は)まだまだおぼつかないながらも、何とか書き上げられてうれしかった。勘亭流は流れるような文字なので、書いていてもリズム感があって、楽しいです」と文字の魅力を語った。
(読売新聞東京本社文化部・森重達裕)
国立劇場令和5年初春歌舞伎公演『通し狂言 遠山桜天保日記-歌舞伎の恩人・遠山の金さん-』 公式サイトはこちら→ https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2022/5141.html