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2022.10.25

国立劇場56年の歴史で初めて!歌舞伎と落語のコラボで「忠臣蔵」…春風亭小朝さんが意気込みを語る

国立劇場11月歌舞伎公演の記者会見後、フォトセッションに応じる落語家の春風亭小朝さん(右)と歌舞伎俳優の中村芝翫さん=佐々木紀明撮影

国立劇場(東京・半蔵門)の11月歌舞伎公演(11月2~25日)は「歌舞伎&落語 コラボ忠臣蔵」と銘打った特別なプログラムが組まれている。56年に及ぶ同劇場の歴史でも初めての試みといい、歌舞伎にも造詣の深い人気落語家の春風亭小朝さん(67)の発案から始まった。公演の前半で忠臣蔵にちなんだ落語2席を口演する小朝さんに、経緯や意気込みなどを聞いた。(聞き手は文化部・森重達裕)

――今回の企画を発案されたのは小朝師匠だそうですね。

小朝 僕は随分前から考えていたんですが、落語と歌舞伎がコラボするのは、これまでなかなかハードルが高かった。でも、この頃は若手の方たちが「ワンピース歌舞伎」を始めたりと、色々なことをやり始めましたでしょ。あれで随分(ハードルが)下がってきた。じゃあ、そろそろやってみましょうと国立劇場さんと話をしたんです。

「中村仲蔵」…男の嫉妬が一つのテーマ

――今回、師匠が手がけられる「中村なかむら仲蔵なかぞう」は大師匠の八代目林家正蔵が十八番にしていた人情ばなしですが、どのように演じようと思っていますか。

小朝 今までとは視点を変えてやりたいと思っています。色々な方の「仲蔵」を聴いたうえで、今まで無視されていた部分を入れたりして。

「中村仲蔵」は江戸時代後期の歌舞伎役者、中村仲蔵が逆境をバネにして役作りに工夫を凝らし、大評判を取ったエピソードを基にした人情噺。落語だけでなく講談、浪曲でも演じられている。

持ち前の機転と努力のかいあって、最下層の稲荷町から名題へと異例中の異例の出世を遂げた仲蔵。だが、昇進後に来たのは「仮名手本忠臣蔵 五段目」の斧定九郎、一役だった。ヤボなどてらを着た山賊の定九郎は、当時は名題役者は演じない端役。一度は憤慨したものの、女房に励まされて奮起し、願掛けの末、そば屋で偶然出会った浪人風の男の粋な姿から、従来の定九郎のイメージを一新する演出を思いつく。

――例えば、このはなしを得意にされていた桂歌丸師匠(2018年死去)は、仲蔵夫人の内助の功を強調されていましたね。

小朝 その部分はもちろんベースにありますが、仲蔵は芝居バカであるのは間違いない。芝居以外のことが見えなくて、「こうやりたい」と思ったら妥協しない。そんな仲蔵の流儀のために摩擦が起こる。今回、僕が(工夫を)考えているのは金井三笑さんしょうという狂言作者です。

――仲蔵に反発していた人物ですね。

小朝 その反発が大事なポイントです。出世しそうな人に対して虫が好かない思いって、あるじゃないですか。実力があることは認めても、どうも虫が好かない。仲蔵としては、与えられた役を一生懸命やっているだけで特に金井三笑を意識してはいないのに、金井三笑の方は自分が書いたものを勝手に変えてくる仲蔵のことを強く意識している。語尾すらも変えてほしくないと考えている脚本家のセリフを勝手に変える役者は、完全に敵ですから。男の嫉妬、プライドが傷ついている。

――モーツァルトにおけるサリエリのような関係でしょうか。才能を認めているがゆえに、悔しくてたまらないという。

小朝 サリエリとモーツァルトとは少し違って、二人は対等な関係ではない。圧倒的に金井三笑の方に力がある。それなのに最下層の稲荷町(大部屋)から出てきた役者が自分に逆らって、ことあるごとに何かやってくる。それが虫が好かないので出世を妨げようとする。今回は「虫が好かない」が、一つのテーマです。

「芝翫さんのような方となら、これからも色々やりたい」

――歌舞伎の「仮名かな手本でほん忠臣蔵」の「五段目」が題材となった落語の「中村仲蔵」を観客に聞かせた後に、続けて歌舞伎の五段目が上演されるのは、面白い試みですよね。

小朝 そうですね。「(斧定九郎の役作りを巡って)こんな苦労がありましたよ」という噺を聴いた後、その定九郎が歌舞伎で出てくるわけですから。それは面白いですよね。

――もう一席披露される「殿中でござる」という噺は、新作落語ですか。

小朝 元々は菊池寛さんの短編小説が原作で、吉良上野介の側から見た忠臣蔵の噺です。「仮名手本忠臣蔵」と「忠臣蔵」がどう違うのか、今はよくわからない方もいらっしゃるでしょうから僕はまず、忠臣蔵とはどんなものなのかを、お客様にわかってもらいたい。赤穂浪士の討ち入りは庶民に受けたけど、お上の目もあるので時代設定を変え、役名を変えたものが「仮名手本」になっているのだと。

――「仮名手本」における五、六段目の魅力はどういったところでしょうか。

小朝 悲劇の王道、すれ違いですよね。すれ違いが良いほうに向かえば喜劇になるし、悲しい方に行くと悲劇になる。そうした悲劇の典型が(早野勘平が切腹する)六段目でしょう。五段目について言えば、鉄砲は出てくる、イノシシは出てくると、ビジュアル的に面白いじゃないですか。それで(斧定九郎が)殺されたら血が出るし、たくさん見せ場がありますね。

――五、六段目で主役の早野勘平を勤められる中村芝翫さんの印象はいかがですか。

小朝 先日、対談する機会がありました。昔の良いものをきちんと守り、伝える役目を自分がしなくてはと思っていらっしゃる。今回のコラボは「古典を崩すわけじゃないから、こういうのは大いにやりたい。アニメとのコラボとか、そういうことは私はやりたくないんです」と言うんですよ。僕も、芝翫さんのような方となら、これからも色々やりたいと思いました。

国立劇場・演芸場との「縁」

――国立劇場と国立演芸場が来年の10月で建て替えのためいったん閉場します。思い出をお聞かせ下さい。

小朝 演芸場は(1979年の)こけら落とし公演に出させていただきましたし、僕は国立劇場で何度も独演会をやっています。今回、「国立劇場さよなら公演」に出られるのも、何かの縁だと思っています。

――2029年に新たな劇場ができますが、演芸場を含め、どんな劇場になってほしいですか。

小朝 演芸場はまったく今のままで良いと思っています。特にスタッフが素晴らしいので、どうか新しい演芸場にも戻ってきてほしい。国立劇場に関して言えば、もうちょっと芝居小屋に寄ってくれたらうれしいですね。お客さんにとってもそうだろうし、役者さんにとってもやりやすくなると思います。

国立劇場11月歌舞伎公演 「歌舞伎&落語 コラボ忠臣蔵」の公式サイトはこちら→ https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2022/41110.html

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