国立劇場(東京都千代田区)を運営する独立行政法人「日本芸術文化振興会(芸文振)」は17日、劇場の建て替えに伴う再整備計画の概要を発表した。
来年10月末の閉場後、4棟の建物(大・小劇場、演芸場、事務棟、伝統芸能情報館)を全て取り壊し、PFI(民間資金を活用した社会資本整備)の手法で、劇場のほか、民間経営のホテル、レストランなども入った施設を整備する。再開場は2029年秋の見込み。
同劇場は日本の伝統芸能の拠点として、歌舞伎や文楽、日本舞踊などが上演されている。1966年の開場から55年が経過し、老朽化が進んでいた。
芸文振の河村潤子理事長は記者会見で、「伝統芸能は人から人へ受け継がれ、人と人をつないできた。初代国立劇場が築いてきた蓄積を基に、伝統芸能を創り、未来へつなぐことを目指す」と決意を語った。
17日に再整備計画の概要が発表された国立劇場は1966年、伝統芸能の保存継承と公開の場として開場した。施設の老朽化に際し、日本芸術文化振興会(芸文振)が改装ではなく、抜本的な建て替えを選んだ背景には「伝統芸能離れ」への危機感がある。
国立劇場は歌舞伎や文楽、日本舞踊のほか、雅楽や仏教声楽「
また、一般から募集する形で、歌舞伎俳優や文楽などの分野で実演家や技術者も養成。現在活動している歌舞伎俳優の3分の1を養成研修の出身者が占めるなど、それぞれの分野に有望な人材を供給している。
一方、娯楽の多様化などで伝統芸能の鑑賞者や技芸の担い手は減少傾向にある。観客の高齢化も進み、新たなファンの開拓が課題となっている。再整備をきっかけに、そうした流れに歯止めをかけたい考えだ。
今年9月から「初代国立劇場さよなら公演」を開始し、様々な記念事業も行う。現劇場は2023年10月末でいったん閉場する。
29年秋に再開場する国立劇場は、運営面でも民間のノウハウを生かす。特に伝統芸能の普及や宣伝に力を入れ、集客につなげる。
当日公演のチケット購入者しか場内に入れない現在の仕組みを改め、誰でも出入りできる「グランドロビー」を新設。インバウンド(訪日観光客)の需要を見据え、皇居や官公庁に接する周辺環境や景観にも配慮しながら、国際的な文化観光拠点を目指す。
芸文振の河村潤子理事長は17日の記者会見で「文化観光という新たな視点からにぎわいを創出することで、初めての方を含めて多くの人に訪れてもらえるようにしたい」と期待感を示した。
芸文振は国立劇場のほか、バレエやオペラ、現代演劇を上演する新国立劇場(東京都渋谷区)、国立能楽堂(同)、国立文楽劇場(大阪市)、国立劇場おきなわ(沖縄県浦添市)を、委託を含めて運営している。これらの施設や民間劇場を活用し、建て替え期間中も主催公演の制作は続けるという。
(2022年6月18日付 読売新聞朝刊より)
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