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2025.6.16

八代目「菊五郎」継承と革新へ — 家の芸復活、新作にも挑戦

八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助襲名披露 七月大歌舞伎(大阪松竹座)

歌舞伎界の大名跡「尾上菊五郎」の八代目を尾上菊之助が、長男の丑之助うしのすけが六代目菊之助を同時襲名し、〔2025年〕5~6月、東京・歌舞伎座で襲名披露が行われている。関西では7月、大阪松竹座で開催される。(編集委員 坂成美保)

「伝統と革新」を理想に掲げ、新たな菊五郎像を模索する八代目尾上菊五郎(右)と長男の六代目尾上菊之助=近藤誠撮影

父・七代目菊五郎から、「おめえ、継げよ」と唐突に言われたのは2年前。「名前はどうされるのですか」と父の名跡について尋ねると父は「俺はこのままでいく」と答えた。七代目と八代目が同時代に並び立つことに「前代未聞のことだな」と戸惑いながらも、決意を固めた。

「父の大きな背中に追いつきたくて芝居をしてきた。父がいてくれることで身が引き締まる。その存在そのものが、父から私に贈られる言葉だと思っています」

初代は京都に生まれ、女形から立役たちやくに転向。上方・江戸両方で人気を誇った。写実の芸で明治劇壇をリードした五代目、その子、六代目も現代の手本となる型を数多く残した名優だ。

八代目は、理想の菊五郎像を「伝統と革新の両輪をなす役者」と考える。「型を正しく継承した上で役になりきる。古典の魅力を伝えられる役者が理想。音羽屋の歴史をすべて受け止めて時代物、世話物、舞踊を磨き続けたい。途絶えた作品の復活や新作にも取り組みます」

披露演目は、菊五郎の代名詞でもある江戸世話物の代表作「髪結新三かみゆいしんざ」。過去に2度勤めた。「せりふのイントネーションや間が難しい。父の世話物には江戸の風が吹く。役そのものがそこにいる。役作りの深さに学びたい。江戸の人々の暮らしや人情の機微、風情を大阪の観客に感じてもらえれば」

家の芸「新古演劇十種」からは「土蜘つちぐも」を菊之助と親子で披露する。八代目は「上演が途絶えた新古演劇十種の復活」も、今後の目標の一つに掲げる。

「羽根の禿かむろ」の禿、「土蜘」の胡蝶こちょうを勤める菊之助は「お芝居をたくさん見て、役の心情について考えることが増えました。名前に負けない役者を目指します」と決意を新たにする。「歌舞伎を好きな気持ちを大事に、ゆったりとした気持ちで成長してほしい」と八代目は温かく見守る。

八代目は4月に開幕した大阪・関西万博の開会式のパフォーマンスにも出演した。「歌舞伎の創始者である出雲の阿国は芸術を神にささげた。自分の身体を通して演じることは命をささげること。型を身体に入れていく歌舞伎は命の輝きでもある。異なる文化が交わり、命と命がぶつかりあって芸術が生まれていきます」

八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助襲名披露 七月大歌舞伎 7月5~24日、大阪松竹座。昼の部は中村鴈治郎、壱太郎かずたろうらによる「野崎村」と「羽根の禿」「うかれ坊主ぼうず」「髪結新三」。夜の部は片岡仁左衛門、中村錦之助の役替わりによる「熊谷陣屋」と「口上」「土蜘」。10、17日は休演日。 ☎ 0570・000・489。

(2025年6月11日付 読売新聞夕刊より)

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