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2025.8.15

渋沢栄一題材の新作能「青淵せいえん」 9月から都内で上演

「近代日本経済の父」と呼ばれる実業家の渋沢栄一の功績をたたえる新作能「青淵せいえん」が、〔2025年〕9月29日に東京・銀座の観世能楽堂、10月30日に王子の飛鳥山公園の野外舞台で上演される。シテ(主役)の篤太郎とくたろう(後の栄一)を能楽シテ方観世流の観世三郎太さん=写真中央=が勤める。

渋沢が晩年を過ごした飛鳥山では、2003年から秋に薪能たきぎのうが開かれており、その運営に携わる人から、渋沢の顕彰能を作る提案があったという。「青淵」は渋沢の雅号で、制作委員会の委員長を務める樺山紘一・渋沢栄一記念財団理事長=同左=は「渋沢の偉業が、私たちの共通財産になるようにと考えた」と語る。

大政奉還後、静岡で「商法会所」を設立して成功した篤太郎は、新政府に出仕する命を受け、東京に戻る。飛鳥山での宴席で眠り込んだ篤太郎は、夢で悪鬼と会い、孔子の教えを盾に対峙たいじする。その後、「論語と算盤そろばん」という言葉に象徴されるような倫理観を説き、平和と繁栄を祈り舞う。

台本を担当した中村雅之さん=同右=は、室町時代に成立した能の主人公に、明治の人物を据えるのは難しかったと明かす一方、「長い人生の中で、青春期から壮年期にわたる、日本の新たな時代の幕開けを舞台にした」と振り返る。渋沢の出身地である埼玉県深谷市をはじめ、静岡や飛鳥山といったゆかりの地を物語に織り込んだ。

シテを勤める三郎太さんは「能の範囲から離れないようにしながら、わかりやすい設定をちりばめた」と話した。

 (2025年8月3日付 読売新聞朝刊より)

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