大ヒット中の映画「国宝」では、門閥外から歌舞伎界に飛び込んだ主人公の挫折と栄光が描かれる。世襲を前提に受け継がれてきた歌舞伎だが、実際には
梨園 出身でない多くの役者たちが支えている。上方歌舞伎のホープ・上村吉太朗もそんな一人だ。大阪府岸和田市出身の24歳。女形として理想美を追い求め、修業にまい進している。(編集委員 坂成美保)
かみむら・きちたろう 2001年生まれ。07年、上村吉弥の自主公演で「傾城阿波の鳴門」の巡礼お鶴を勤め、初舞台を踏む。22年度「咲くやこの花賞」受賞。京都・南座の「花形歌舞伎」「歌舞伎鑑賞教室」「顔見世(かおみせ)興行」などで活躍。9月30日から10月5日まで出石永楽館(兵庫県豊岡市)の「永楽館歌舞伎」に出演する。
〔2025年〕5月下旬、京都・南座の歌舞伎鑑賞教室で上演された長唄舞踊「相生獅子」。振り袖姿のしとやかな姫君として登場した吉太朗は、後半打って変わり、躍動感あふれる「毛振り」で観客を圧倒した。
幼い頃から「変身願望」が強く、「ウルトラマン」に憧れて人形を持ち歩いていた。父はサラリーマンで芸事とは縁のない家庭で育った。料理人の祖父がたまたま女形役者・上村吉弥の同級生だった縁で、4歳の時、祖父に連れられて岸和田市立浪切ホール(現・南海浪切ホール)に、吉弥の「藤娘」を見に行った。
本番前の楽屋を訪れ、吉弥が役の
「夢のような時間でした。舞台で踊る師匠(吉弥)は、人間離れしたこの世のものでない存在。こんな世界があるんだとたちまち魅了されました」
それから劇場に通い、舞台袖の幕だまりで木箱に腰掛けて過ごすようになった。5歳から日本舞踊の稽古も始め、「子役で出てみないか」と吉弥から、自主公演への誘いを受けた時は跳び上がって喜んだ。
演じる役は「
吉弥も梨園出身ではない。高校時代に歌舞伎を見て感銘を受け、18歳で十三代目片岡仁左衛門の長男、
歌舞伎界には、歌舞伎役者の弟子「
指導役を担ったのは吉弥。稽古でやみくもにダメ出しをするのではなく、複数の演じ方を見せて「どちらがいい?」と考えさせる。「美しい演技や所作には必ず理由があり、『なぜそうするのか』を探ってきた」と吉太朗はいう。徐々に判断基準が養われてきた。
吉弥が長年出演してきた南座の鑑賞教室を引き継ぐ形で出演し、今年で4年になる。7~8月には新作歌舞伎「刀剣乱舞
「歌舞伎役者の家に生まれなくとも、歌舞伎の舞台で活躍できると子どもたちに伝えたい。歌舞伎との出会いの感動と衝撃を身をもって知る僕だからこそ」
(2025年8月27日 読売新聞夕刊より)
0%