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2023.7.28

玉三郎×愛之助「笑える怪談」―「怪談 牡丹燈籠」 京都・南座8月公演

「怪談というものは人の心の中にある。笑いからだんだんと怪談になっていくところがこの作品の面白さです」と語る坂東玉三郎(右)と片岡愛之助=川崎公太撮影

「カラーン、コローン」と下駄げたの音を響かせて、美しい幽霊が燈籠とうろうを手に恋しい男の元に通う。幕末から明治にかけて活躍した落語家・三遊亭円朝の怪談ばなし牡丹ぼたん燈籠」は、明治期に歌舞伎化され、大当たりを取った。現代では、劇作家・大西信行が文学座に書き下ろした脚本でも知られる。過去3回、大西本で出演した人間国宝の坂東玉三郎が「数少ない笑える怪談」と評する作品だ。〔2023年〕8月の京都・南座公演では、片岡愛之助を相手役に迎える。(編集委員 坂成美保)

◆夫婦のすれ違い焦点 会話劇の妙味

「真面目な芝居の中で笑える芝居を探してみたことがあるんです。日本には意外と笑える芝居が少ない」と玉三郎。思い浮かんだのは「ふるあめりかに袖はぬらさじ」(1972年初演)と大西本の「怪談牡丹燈籠」(74年初演)だった。どちらも文学座の名優・杉村春子の当たり役で、後に玉三郎も演じた。

玉三郎は「鶴屋南北物、円朝芝居噺(ばなし)のどちらの怪談にも共通するのは人間の闇を描いていることです」と語る

文学座の「怪談牡丹燈籠」を見た玉三郎は、杉村のせりふで客席に笑いが起きたことに感動したという。「大西先生の本は笑いの中に人間模様が出てくる。人間の切なさがある。ほかの怪談にはない、特別な芝居、独特な芝居で大好きです」

大西本は、幽霊にれ込まれた新三郎の下男、伴蔵ともぞうとお峰の夫婦がクローズアップされている。妻が夫をそそのかし、幽霊から手に入れた大金で荒物屋「関口屋」を開業する。貧乏暮らしを抜け出し、裕福になったものの、次第に「心の闇に入っていく」。夫の浮気を巡る「夫婦げんか」も見せ場の一つだ。お峰を演じるのは玉三郎。伴蔵に愛之助が初役で挑む。

愛之助は、伴蔵の本質を「生きることに強い心を持っている。生への執着が強い。内弁慶で妻にはわっと感情を出すくせ、怖がりで、かわいいところもある」と分析。「人間の色んな面を出すことができれば。怖いのは幽霊よりも生きている人間の気持ちです」と語る。

「笑いを求めにいくのではなく、自然な会話の流れを大切に演じたい」と意欲を見せる愛之助

玉三郎は「裕福になったことで生じる夫婦のすれ違い」に焦点を当てて、会話劇の妙味を重視する。「江戸の世話狂言を愛之助さんがどう料理するのか、期待でいっぱいです。お互いに遠慮なくつかみ合いで芝居をしたい」

演出面でも玉三郎の工夫が生かされる。大西本では円朝自身も登場人物の一人で、高座の場面が盛り込まれているが、玉三郎は今回、円朝を登場させない。「新劇で落語もどきをやるのは楽しい演出ですが、今回は芝居の流れが途切れないようにと工夫しました」

◇坂東玉三郎特別公演「怪談牡丹燈籠」 

旗本の娘・お露は、ひと目ぼれした浪人・新三郎(喜多村緑郎)に恋い焦がれて死んでしまうが、後追い自殺した乳母・お米(上村吉弥)とともに幽霊になって、牡丹を描いた燈籠を手に、新三郎を訪ねてくる。新三郎の下男・伴蔵(愛之助)とお峰(玉三郎)の夫婦は、100両の大金を受け取り、幽霊を新三郎に引き合わせる。

幽霊からもらった100両を資金に、荒物屋を開店した伴蔵夫婦。伴蔵は酌婦・お国(河合雪之丞ゆきのじょう)に入れ揚げ、店に通い詰める。嫉妬に駆られたお峰は伴蔵を問い詰めるが……。

〔2023年〕8月3~27日、京都・南座。午後2時開演。9、15、22日は休演。(電)0570・000・489。

(2023年7月26日付 読売新聞朝刊より)

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