歌舞伎の名門に生まれた同学年の2人、中村鷹之資と片岡千之助が、京都・南座の「三月花形歌舞伎」(〔2023年3月〕4~26日)に初めて出演する。演目は古典の名作「仮名手本忠臣蔵」の五、六段目。互いに
切磋琢磨 しながら初役に挑む。(大阪編集委員 坂成美保)
鷹之資は、舞踊の名手で口跡の爽やかさで知られた人間国宝・中村富十郎(2011年死去)の長男。今月、東京・歌舞伎座で、父の十三回忌追善の「船弁慶」を勤めている。能が原作のこの演目を得意とした父は、世阿弥の芸術論集「風姿花伝」をバイブルにしていたという。
「父から芸に取り組む心を学びましたが、まだ幼かったので、役について色々と教えてもらう機会はなかった。今、もし生きていれば教わりたいことはたくさんある。ただ、父の舞台を覚えている方はたくさんいます。真剣に舞台を勤める記憶の中の父は、僕の財産です」
今回の南座公演は、江戸と上方の2通りの演出で配役を替え、午前と午後、交互に演じる趣向を取り入れる。鷹之資は上方の「Aプロ」で
武士から山賊に落ちぶれて、勘平がイノシシを狙った弾に当たって死ぬ定九郎は、江戸期の名優・中村仲蔵の工夫で、魅力的な悪役として定着したとされる。一方の千崎は、武士を貫き、あだ討ちの準備に奔走する。
「仲蔵の立志伝を題材にした講談『中村仲蔵』が大好きで、定九郎は、仲蔵という役者の魂のこもった役。定九郎は悪のかっこよさ、千崎は武士の実直さを表現したい」
一方の千之助は、上方・江戸歌舞伎の両方で活躍する人間国宝の片岡仁左衛門を祖父に、上方を代表する女形、片岡孝太郎を父に持つ。現在、22歳。昨年末の南座の
「いつかは出たい」と願ってきた南座の花形歌舞伎。上方演出のAプロでヒロイン・おかる役が決まり、父に「教えてほしい」と願い出ると、「とにかく頑張りなさい」と励まされた。
おかるは元々農家の娘だが、都会に憧れて腰元として
「勘平のことを思うおかるの
2018年8月の歌舞伎座公演、12月の南座・顔見世などで共演してきた鷹之資とは、普段から気の置けない間柄だ。楽屋でも食事に出る時も、「将来、2人でどんな芝居を一緒にやってみたい?」などと、芝居の話題で意気投合する。「かさね」「忠臣蔵・七段目」……と次々演目が思い浮かぶ。「
◇なかむら・たかのすけ 1999年4月生まれ。2001年に歌舞伎座で初代中村大を名乗り、初舞台。05年に初代中村鷹之資を披露。20年に「三社祭」の悪玉、21年に「太刀盗人」の万兵衛などを勤めた。
◇かたおか・せんのすけ 2000年3月生まれ。04年に歌舞伎座で初代片岡千之助を名乗り初舞台。20年に「三社祭」の善玉、21年に「桜姫東文章」の吉田松若、「東海道四谷怪談」のお梅などを勤めた。
■仮名手本忠臣蔵・五、六段目
早野勘平は、主君・
塩冶 判官が殿中で刃傷 に及んだ時、腰元おかるとの色恋にふけっていた後悔を抱え、おかるの実家に身を寄せている。猟師になったもののあだ討ちに参加したいと願う。おかるの父・与市兵衛は、娘を身売りして勘平のあだ討ちの資金にするつもりだが、受け取った金を斧定九郎に奪われ、刺殺される。直後に勘平がイノシシを狙った鉄砲の弾が当たって定九郎は即死。勘平は定九郎の懐から財布を奪って帰宅する。やがて与市兵衛の遺体が運び込まれて……。南座「三月花形歌舞伎」のAプロは勘平が中村
壱太郎 、千崎が中村莟玉 、お才が尾上右近。Bプロの勘平は右近、おかるは莟玉、お才は壱太郎。毎回、解説と忠臣蔵をモチーフにした舞踊「忠臣いろは絵姿」も付く。(電)0570・000・489。
(2023年2月22日付 読売新聞朝刊より)
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