日本美を守り伝える「紡ぐプロジェクト」公式サイト

2026.2.18

京都・南座「曽根崎心中物語」— 役替わり 新演出で魅了

三月花形歌舞伎特別公演

昭和の復活上演から70余年を経て、近松門左衛門作「曽根崎心中」に新たな光を当てた新演出の「曽根崎心中物語」が〔2026年〕3月、京都・南座で誕生する。監修を手がけるのは中村鴈治郎。お初・徳兵衛を鴈治郎の長男・壱太郎かずたろうと尾上右近が役替わりで演じる。映画「国宝」のクライマックスシーンにも登場する名作。30歳代の2人が演じる〈令和版曽根崎心中〉に期待が高まる。(編集委員 坂成美保)

「祖父が大切にしてきた作品。家や一門だけで継承するのではなく、多くの役者に『演じたい』と思ってもらえる作品にして残したい」と意欲を燃やす中村壱太郎(右)と尾上右近=原田拓未撮影
中村壱太郎 「国宝」から新たな可能性

映画「国宝」で「曽根崎心中」の所作指導を担った壱太郎は、撮影現場で受けた刺激が、今回の取り組みにつながったという。

「原作小説の深い人間ドラマを『曽根崎心中』が受け止め、吉沢亮さん、横浜流星さんが演じる姿を見て、作品の新たな可能性を感じた。役者として生きること、舞台に立つことの生きがいを再認識しました」

右近も即座に呼応し、「曽根崎心中物語」という新タイトルでの役替わり上演が決まった。壱太郎の徳兵衛、右近のお初は初役になる。

ポスター、チラシ用のビジュアルも新演出を意識して制作された(左から右近、壱太郎)ⓒ松竹
右近(左)のお初、壱太郎の徳兵衛はいずれも初役になるⓒ松竹
尾上右近 同じ役愛する思い重なる

「ダブルキャストで同じ役を愛する仲間が同じ月の公演にいるのは青春の香りがする。僕がやりたいと思った時、壱太郎さんも同じ考えで、思いがぴったり重なった」と右近。

新演出では、鴈治郎監修の下、お初・徳兵衛のラブストーリーに焦点を合わせ、テンポアップを図るという。壱太郎は「江戸時代の古典でありながら、戦後の1953年に復活上演された新作歌舞伎に近い作品。お初は祖父・坂田藤十郎の当たり役だが、こう演じてはいけないという決まりはない。祖父の思いを大切にしつつ、新たに見つめ直してみたい」と演じ方を模索している。

2024年2月に大阪松竹座で上演された際、右近は初めて徳兵衛役に挑んだ。

「通常立役たちやくは開放的でエネルギーを発散できる。徳兵衛の場合は仲間にいじめられたり、縁の下でじっと身を潜めたり。下座音楽がない中、自分でせりふのリズムをつくるのは大変で、驚くほどストレスがたまる役でした。初日は緊張のあまり胃腸炎になるかと」

この公演で3度目のお初を勤めた壱太郎は、「ラストで緞帳どんちょうが下りて、すぐに素に戻る公演も多いが、この時は、終わっても芝居の空気が残っていた。それくらい浸れる作品だった」と振り返る。

今回の脇役陣は上方の役者を中心に配役する。5月には上方歌舞伎の本拠劇場・大阪松竹座の閉館が迫っており、壱太郎は「上方歌舞伎を守らなくては」と強く意識しているからだ。

「劇場がなくなるということは、単に公演の場が減るだけでなく、長年培われてきた音響さん、照明さんらスタッフ、制作陣の技術の蓄積も消えてしまう。松竹座という劇場の匂いが失われていく気がする。やるせない思いです」と胸中を吐露した。

三月花形歌舞伎特別公演

3月3~25日、京都・南座。中村鴈治郎監修による「曽根崎心中物語」と花形歌舞伎特別対談。桜プログラムでは、壱太郎がお初、右近が徳兵衛を勤め、松プログラムでは右近がお初、壱太郎が徳兵衛を勤める。10、17日は休演日。14、21日は3公演で、ほかは2公演。 ☎0570・000・489。

(2026年2月12日付 読売新聞夕刊より)

期間中は1日3公演にもチャレンジする(左から)右近、壱太郎

Share

0%

関連記事