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2024.11.1

【歌舞伎座インタビュー】「父の勤めていた役を自分が演じてみると、先輩たちがどれだけ色々なことを考えていたかが分かりますね。ただ見ているだけでは分からないことがたくさんあります」―「錦秋十月大歌舞伎」では『権三と助十』に出演中の坂東亀蔵さん

坂東亀蔵さんは尾上菊五郎さん率いる「菊五郎劇団」の中堅俳優である。〔2024年〕10月から12月にかけては、東京・東銀座の歌舞伎座に出演。「錦秋十月大歌舞伎」(10月26日まで)では『権三と助十』の助八を演じており、「十一月歌舞伎座特別公演 ようこそ歌舞伎座へ」(11月1~23日)では『三人吉三巴白浪さんにんきちさともえのしらなみ』の「大川端庚申塚の場」で和尚吉三を初役で勤めることになっている。気っのいい、鯔背いなせなたたずまいで江戸の空気を舞台にもたらす亀蔵さん。それぞれの役に臨む心構えなどを聞いた。(聞き手は事業局デジタルコンテンツ部・田中聡)

――十月の歌舞伎座昼の部、『権三と助十』は菊五郎劇団ではおなじみの演目ですね。助十の弟、助八を亀蔵さんが勤めるのは、令和元年6月の博多座以来2度目です。どんな心構えで役に臨んでいらっしゃるんでしょうか。

亀蔵 叔父(河原崎権十郎)がずっと勤めていた役。兄(坂東彦三郎)も演じています。子どものころから見ていた芝居なので、どういう役なのかはよく分かっています。江戸の庶民の暮らしを描いた作品なのですが、大正時代に岡本綺堂さんが書いた「書き物」ですから、鶴屋南北や河竹黙阿弥の「世話物」と違って、これという型がない。逆に言えば、チームワークが大事だと思っています。演じる役者が変わると、同じ役でも息づかいが変わってくる。そういう所は、意識していますね。

令和6年10月歌舞伎座『権三と助十』(©松竹)

――助八は威勢がいい、ちょっとやんちゃな若者。井戸替えの描写があったり願人坊主や猿回しの芸人などが出てきたり、裏長屋の風情が漂う芝居です。

亀蔵 新橋演舞場で、亡くなった(十世坂東)三津五郎兄さんが権三をおやりになった時、「初演の権三は十五代目(市村羽左衛門)だったんだよ」と教えていただいたんです。色気のある2枚目の役なんですね。助十は(二世市川)左團次さん、助八は(初世市川)猿翁さん。そう考えるとイメージがハッキリしてきます。

――どんな役かを知りたければ初演の時の配役を見ろ、と言われますもんね。

坂東亀蔵さんは1978年9月16日生まれ。父は二代目亀蔵から八代目坂東彦三郎となった坂東楽善さんで、兄は九代目坂東彦三郎さんである。叔父に市村萬次郎さん、河原崎権十郎さんがいて、十七世市村羽左衛門が祖父、その祖父が五世尾上菊五郎。代々の「役者の家」なのである。若手時代は女方も勤めていたが、現在は立役として、江戸っ子らしい鯔背な風情が持ち味である。

――11月の「ようこそ歌舞伎座へ」は、歌舞伎に関するあれこれについての解説などもあり、気軽に歌舞伎の魅力を楽しめる雰囲気。亀蔵さんは『三人吉三』の「大川端」で和尚吉三を演じられます。初役ですよね。

亀蔵 もちろん初めてです。というか、「和尚」をやるとは思っていませんでしたから。ボクのにんからすると、「お坊吉三」だと思うんですよ。「和尚」といえば今は、(尾上)松緑さんのイメージが強い。10月中に色々と教えていただこうと思っています。

――和尚吉三を演じるには、何が大事だと思いますか。

亀蔵 やっぱり「格」ですかね。お嬢吉三とお坊吉三の諍いを「格の違い」を見せて止めなければいけない。人間的な重みというか余裕というか、そういうものを出せるようにしなければいけない、と思います。歌舞伎を余り観たことがない若い世代のお客様も増えると思うので、この芝居がどう映るのか。学生の方には、『棒しばり』などの松羽目物が好評、というふうな感じで、演じているこちら側が考えているのとはちょっと違った反応が来たりするんです。だから、今回の公演で客席がどんな雰囲気になるのか。ちょっと楽しみですね。

――12月の「十二月大歌舞伎」では、第一部で(中村)獅童さんの『あらしのよるに』と第二部の『加賀鳶』に出演。『加賀鳶』は松緑さんが二役を勤めますが、最近の亀蔵さんは、松緑さんの“右腕”という感じです。菊五郎劇団での存在感も年々増しているように感じます。

亀蔵 松緑さんは私の4歳上なんですが、昔からよくしていただいています。自分も年齢を重ねて、以前は父親や叔父が演じていた役が私のところにまわってくるようになりました。そういう役を演じて気付くのは、「見ているだけでは分からないことがとても多い」ことです。先輩たちが何気なくやっているところが、実は隅々まで色々と考えられていて、ただ見ていた時に思っていたよりも、ずっと難しいんですよ。幸い、私の周りには「教えて下さる方々」がまだまだいらっしゃいますから、祖父の世代から父の世代へと伝わってきた役のエッセンスをしっかり受け継いで、次の世代へと伝えていきたいですね。

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