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2024.3.25

【歌舞伎座インタビュー】「年のうち半分が歌舞伎、残りの半分が映像や現代劇の舞台。仕事のペースはここ10年変わりません」―「三月大歌舞伎」「四月大歌舞伎」に出演の片岡愛之助さん

歌舞伎の舞台だけでなく、テレビや映画、現代劇の舞台などでも活躍中の片岡愛之助さん。〔2024年〕3月、4月は東京・東銀座の歌舞伎座の「三月大歌舞伎」「四月大歌舞伎」に出演だ。上方育ちの俳優のひとりとして、大役が続く愛之助さん。歌舞伎への想いや今後の展望などを話してもらった。(聞き手は事業局専門委員・田中聡)

――26日まで行われている「三月大歌舞伎」では昼の部で『菅原伝授手習鑑すがわらでんじゅてならいかがみ 寺子屋』の源蔵、夜の部は『伊勢音頭恋寝刃いせおんどこいのねたば』の料理人喜助。「四月大歌舞伎」(4月2日~26日)では昼の部で『夏祭浪花鑑なつまつりなにわかがみ』の団七九郎兵衛、夜の部で『四季』の男雛おびな。大忙しですね。テレビや映画などでも大活躍です。どんなペースで仕事を考えていらっしゃるんですか。

愛之助 年間通じて、半分が歌舞伎、残りの半分がテレビや映画、歌舞伎以外の舞台という仕事のペースはここ10年変わっていません。私という存在が「これまで歌舞伎を見たことがないけど、今度見にいこうか」という方への「きっかけ」になったらいいな、と思っています。「歌舞伎の芝居は難しい。何をやっているのか、わからない」とおっしゃる方が増えている今、国立劇場の養成所でも歌舞伎俳優の志望者が減っている状況ですので、色々な方にもっともっと歌舞伎を見ていただきたい。役者の方でも歌舞伎を盛り上げたい。「力を合わせてやっていかないと」と同世代の人たちと話し合ってもいるんです。

令和6年3月歌舞伎座『菅原伝授手習鑑 寺子屋』武部源蔵=片岡愛之助(©松竹)

――といっても、両立は大変なんじゃないですか。

愛之助 2023年の後半からは、ありがたいことに忙しい日々でした。11月に大阪、福岡で日本テレビ開局70年記念の舞台『西遊記』に出て、12月に新橋演舞場で新作歌舞伎の『流白浪燦星るぱんさんせい』。さらに年末から1月にかけて御園座、明治座で『西遊記』。2月は大阪松竹座で『源平布引滝ぬのびきのたき』を「義賢よしかた最期」~「竹生島遊覧」~「実盛さねもり物語」と、通しで勤めました。稽古期間も短かったですし、古典、新作歌舞伎、歌舞伎以外の舞台、とスタイルも様々でした。

愛之助さんは1972年3月4日生まれの52歳。歌舞伎とは関係の無い家庭で生まれたが、子役経験を経て十三世片岡仁左衛門の部屋子となり、92年に二世片岡秀太郎の養子となるとともに六代目として片岡愛之助を襲名した。以降、歌舞伎俳優として順調にキャリアを重ねる一方で、2013年のテレビドラマ『半沢直樹』(TBS)での黒崎駿一役が話題となり、ブレイク。歌舞伎に加え、ミュージカルなどの舞台から、テレビ・映画などの映像作品まで、現在も幅広い活躍を見せている。ちなみに『西遊記』では孫悟空、アニメでおなじみ「ルパン三世」を歌舞伎の舞台にした『流白浪燦星』ではルパン三世を演じた。

令和6年3月歌舞伎座『菅原伝授手習鑑 寺子屋』武部源蔵=片岡愛之助(©松竹)

――3月、4月の歌舞伎座の舞台について伺います。『寺子屋』では2度目の源蔵役。このお芝居では、松王丸も演じていらっしゃいます。両方を演じてみて、どんな感想をもっていらっしゃいますか。

愛之助 松王丸を先に演じたのですが、その時は「源蔵は大変なお役」という印象でした。最初からずっと眉間にしわを寄せて戸浪と一緒に「どうしようか」と悩み続けるお役じゃないですか。でも、実際に源蔵を勤めてみると「大変」なのはイメージ通りだったのですが、「面白いお役だな」と感じるようになりました。「どうしようか」とずっと悩んでいる中でも、自分で芝居を動かしていくお役。やりがいを感じながら勤めています。

――源蔵のような二枚目も、松王丸のような力強い武将の役もできる。そういう幅広さは愛之助さんの持ち味でもありますね。

愛之助 松王丸は(五代目片岡)我當がとうの伯父、源蔵は(十五代目片岡)仁左衛門の叔父に教わりました。松嶋屋の一門の中で、タイプの違う立役の先輩がいることは、私にとっては幸せです。

令和6年3月歌舞伎座『伊勢音頭恋寝刃』料理人喜助=片岡愛之助(©松竹)

――『伊勢音頭』の方は、料理人の喜助の役。こちらはどのようなことを心がけていらっしゃいますか。

愛之助 舞台に出た瞬間、5秒ぐらいの間でしょうか、その間でお客さんに納得してもらえるか、ということですね。スッキリと身ぎれいにして、いかにも料理人という風情を感じられるか。とにかくそこが重要だと思っています。

令和6年3月歌舞伎座『伊勢音頭恋寝刃』料理人喜助=片岡愛之助(©松竹)

――見た目でお客さんをどう納得させられるか。ほかのお芝居やテレビ、映画でもそうでしょうが、歌舞伎ではそれが特に重要ですからね。「四月大歌舞伎」では『夏祭浪花鑑』と『四季』に出演ですが、こちらはどうですか?

愛之助 『夏祭』は昨年6月、博多座で(尾上)菊之助さんとご一緒したばかりでしたから、1年も経たないうちに歌舞伎座で、ということになって驚いています。踊りの『四季』は、これから詳細が決まるところ。菊之助さんと「男雛・女雛めびな」として息を合わせて勤めたいと思います。

令和4月9月大阪松竹座『夏祭浪花鑑』団七九郎兵衛=片岡愛之助(©松竹)

――団七九郎兵衛は何度も演じてらっしゃいますが、上方歌舞伎の大役ですから、やっぱり特別な思いがあるんじゃないですか。

愛之助 江戸の役者さんたちも多く演じているお役ではありますが、私たち上方の役者が演じる際の、ネイティブな関西弁のニュアンスを楽しんでいただきたいです。子役の時に十三世(片岡仁左衛門)に目をかけていただいて、この世界に入った私ですが、当時はこんな大きなお役をやらせてもらえるなんて、夢にも思っていなかった。亡くなった父(秀太郎)を含め、周りの方々に感謝しています。役者という存在は、常に「ING」でいなければいけません。常に今が大事、一期一会の精神で仕事に臨んで、多くの人を歌舞伎に惹き付ける存在になっていきたいですね。

令和4月9月大阪松竹座『夏祭浪花鑑』団七九郎兵衛=片岡愛之助(©松竹)

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