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2024.1.16

【歌舞伎座インタビュー】「自分はこういう役者」と枠を決めず、いろいろな役に挑戦したい ―「壽 初春大歌舞伎」に出演中の尾上右近さん

このところ活躍が目立つ20歳代、30歳代の若手俳優たち。〔2024年1月〕27日まで歌舞伎座で上演されている「壽 初春大歌舞伎」昼の部、『狐狸狐狸こりこりばなし』でおきわを演じている尾上右近さんもそのひとりだ。15日からは、夜の部で『京鹿子娘道成寺きょうがのこむすめどうじょうじ』を踊る右近さんは、2月、3月には上方歌舞伎の大役を勤める予定だ。歌舞伎界で存在感を増しつつある今、役に臨む意気込みを聞いた。(聞き手は事業局専門委員・田中聡)

『狐狸狐狸ばなし』は、昭和36年(1961年)に東京宝塚劇場で初演された北條秀司作の喜劇。一癖も二癖もある男と女の騙しあいを描いたブラックコメディーである。元女方役者で手拭い染屋の伊之助には、美しい女房・おきわがいるが、このおきわは昼間から大酒を飲むは家事はしないは、の自堕落な生活。破戒僧・重善と白昼堂々、浮気もしている。その重善に金持ちの娘との縁談が舞い込んできた。愛人と別れたくないおきわは、邪魔な伊之助を殺してしまおうとするのだが……。初演で伊之助を演じたのは森繁久彌、おきわが山田五十鈴、重善が十七世中村勘三郎、伊之助に雇われている又市が三木のり平という配役だった。

――『狐狸狐狸ばなし』といえば、亡くなった(十八世中村)勘三郎さんが得意にしていた演目。勘三郎さんの伊之助と(中村)福助さんのおきわは、息の合った名コンビでした。記憶に残っているのは、今の(市川)團十郎さんが重善を演じた平成15年12月の歌舞伎座。右近さんもご覧になっていますよね。

右近 もちろん覚えています。皆さんの個性が見事に融合して、本当に素敵な舞台でした。その時の残像は、今もしっかり残っています。

令和6年1月歌舞伎座『狐狸狐狸ばなし』女房おきわ=尾上右近(©松竹)

――そのおきわを今回、ご自分が演じるわけですが、いかがですか。福助さんにアドバイスを求めたりしたのでしょうか。

右近 勘三郎のおじさま、福助のお兄さんコンビの印象が強いからこそ、それを追随しすぎてはいけない、とも思っています。今回、おきわを演じるにあたっては、あえて福助さんからアドバイスを求めるようなことはしていないんです。今回は(新派文芸部の)大場正昭さんが演出に入っていらっしゃって、伊之助を演じる松本幸四郎お兄さんが描かれるプランもおありなので、そこに身を委ねつつ自分なりの芝居を作っていけたら。そんなふうに思っています。今回出演が決まって、福助さんが過去の舞台写真を送ってくださったことがとても嬉しかったです。

――きっちり型のある古典とは違いますからね。おきわという役は、亭主を殺そうとする毒婦ですが、重善に対しては一途でかわいいところもある。福助さんは、そういう所の表現が絶品でしたが、右近さんご本人は、この役を演じると思っていましたか。

右近 全く予想していませんでした。福助さんのおきわは真似しようと思っても真似できない。はすっぱだったり、色気やかわいさを出してみたり、声の使い方が特徴的。おきわのせりふを数えてみたところ、190以上ありました。とても「声色」でできる数ではないので「自分の声」で芝居を作っていかなければいけない。共演者の皆さんとのバランスを取りながら、どんな舞台を作り出せばいいのか。幕が開いても試行錯誤が続いています。初日は四苦八苦でした(笑)

――初演の配役を見ても錚々そうそうたる俳優さんばかり。一筋縄ではいかない芝居ですからね。

右近 主役である伊之助を中心に、おきわ、重善、又市、それぞれに十分な見せ場がある。単なる喜劇でなく、笑いながら見ている人に人の世のシビアさや本質、怖さを感じさせる。リアルとフェイクがまぜこぜになっているのが歌舞伎の舞台ですが、その振れ幅が他の狂言よりも大きい気がします。

――幕切れで三味線を弾くのも、おきわを演じる役者の見せ場なんですが、三味線はもとから弾いているんですか。

右近 環境的に子どものころから触ってはいたのですが、本格的にはやっていません。兄(清元斎寿)が三味線演奏家なので、ファンクラブの集いで2024年は僕が三味線を弾いて兄貴が歌おうか、という話もしていたところなんです。何事もできないよりはできた方がいいので、これを機にそういうこともしてみようかな、と思っています。

令和6年1月歌舞伎座『狐狸狐狸ばなし』女房おきわ=尾上右近(©松竹)

夜の部の『京鹿子娘道成寺』は、中村壱太郎さんとのダブルキャスト。初日の2日から14日までは壱太郎さんが踊り、15日から27日までは右近さんが踊る。

――その『狐狸狐狸ばなし』だけでも大変なのに、中日以降は『道成寺』も踊らなければいけない。この踊りには「真女方」として踊る(中村)歌右衛門さんの型と、よりすっきり技巧的に見せる音羽屋(尾上菊五郎)系の型がありますが、右近さんはやっぱり音羽屋の型ですか。

右近 そうですね。藤間勘十郎先生に教えていただいているのですが、自分も「兼ねる役者」なので、どちらかといえばそちらの系統です。ただ、感情をしっかり入れてコッテリと踊る成駒屋さんの形も、身に着けておくことが役者として十分な栄養になる。だから、そういう要素も入れていこうと思っています。歌舞伎座の『道成寺』といえば、大成駒(六代目中村歌右衛門)や(尾上)梅幸さん、(坂東)玉三郎さんといった先輩方が踊られていて、その末席に名前を加えさせていただくわけですから、そういう先輩たちと比べられても恥ずかしくないような踊りにしなければいけない、と思っています。

――壱太郎さんとはいいコンビになりつつありますね。2月の松竹座では『曽根崎心中』の徳兵衛とお初、3月の南座では『河庄』の紙屋治兵衛と紀の国屋小春。上方のこういう芝居、あまり勤める機会はないと思うんですが、違和感はないですか。

右近 それが全然ないんですよ。上方の若旦那のような役柄に自分自身シンパシーを感じる部分もあったりします。「自分はこういう役者だ」と枠を決めるのではなく、いろいろな芝居ができるような役者になりたいと思っているんです。我々の世代も、重要な役をやらせていただけるようになってきた。今が大事な時、と肝に銘じています。

「壽 初春大歌舞伎」の公演情報はこちら:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/851

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