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2024.9.25

團十郎 「超人」5役早替わり ― 10月、大阪で襲名披露掉尾

襲名披露の締めくくりとなる大阪松竹座公演の抱負を語る市川團十郎白猿ⓒ松竹

2022年から2年間続いた十三代目市川團十郎だんじゅうろう白猿はくえんの襲名披露の掉尾とうびを飾る公演が〔24年〕10月、大阪松竹座で開催される。團十郎は家の芸「歌舞伎十八番」の原典ともいえる「雷神なるかみ不動北山ざくら」で5役早わりを勤め、長男・八代目市川新之助と「連獅子」で共演する。(編集委員 坂成美保)

新之助と「連獅子」共演 成長に安堵

「雷神不動北山櫻」は江戸時代の名優・二代目團十郎が上方入りして、1742年に道頓堀・大西の芝居で初演した作品。「鳴神なるかみ」「不動」「毛抜けぬき」といった、後に歌舞伎十八番に制定される演目の登場人物たちが活躍する。

團十郎は、海老蔵時代の2008年に脚本を刷新。登場人物5役を1人で演じる趣向を取り入れ、人物が宙に浮いたように見える「空中浮遊」などの見せ場を盛り込んだ。超人的な人物を描く「荒事あらごと」の魅力が詰まった作品だ。

「約280年前、二代目が大坂の地で大当たりを取った作品。十三代目が大阪に来るなら、これをやるしかない。荒事はエンターテインメント性が高くて分かりやすい勧善懲悪の表現。大阪の地で日本の伝統文化を披露したい」と意気込みを語る。

一方、これまで歌舞伎十八番の「外郎売ういろううり」「毛抜」に挑戦してきた新之助は、能「石橋しゃっきょう」を歌舞伎舞踊に移した「連獅子」に初挑戦。親子共演が実現する。

親獅子が獅子を谷底に突き落とし、仔獅子が試練を乗り越えるストーリーで、勇壮な「毛振り」が見せ場になる。

新之助が自ら「やりたい」と申し出たという。團十郎は「ホントにいいの?」「わかってる?」と、少なくとも3回は聞き直したが新之助の決意は揺らがなかった。

「十分に突き落とされる覚悟はできているでしょう」と團十郎。「彼を信じて突き落とし、どう受け止め、はい上がってくるのか見守ってみたい。彼は、自分で決断して順調に成長している」と安堵あんどの表情を浮かべる。

2024年5月に道頓堀で開催したイベントでは、船上から市川家伝来の「にらみ」を披露した=宇那木健一撮影

海老蔵時代は新作歌舞伎にも熱心に取り組んできたが、襲名を機に、古典の力を再発見する日々が続く。

「今、團十郎として誰よりも古典をやっている。台本に手を入れて、古典を少しでもわかりやすく届け、上演時間も短縮してアップデートしていく。それが将来、伝統文化を守ることにつながる」と、自らの役割を見据えている。

◇十三代目市川團十郎白猿襲名披露、八代目市川新之助初舞台 十月大歌舞伎 〔2024年10月〕10~26日、大阪松竹座。昼の部「雷神不動北山櫻」には中村梅玉、雀右衛門、鴈治郎、松本幸四郎らが出演。夜の部は、市川右団次らの「義経千本桜 鳥居前」、幸四郎らの「一條大蔵ものがたり」に「口上」「連獅子」。(電)0570・000・489。

(2024年9月25日付 読売新聞夕刊より)

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