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アラタニ・シアターでは終演後のカーテンコールに観客も総立ち=いずれも国立劇場提供

2024.11.27

【文楽・アメリカ公演報告】 アニメ融合 観客総立ち

人形浄瑠璃文楽の米国公演が〔2024年〕9~10月、5年ぶりに実施された。コロナ禍後、初めての海外公演。9月26日~10月12日の日程でロサンゼルス、フェアフィールド、ニューヨーク、ワシントン、ヒューストンの5都市で計9公演が行われた。制作を手がけた総合プロデューサーの神田竜浩・国立劇場伝統芸能課長にツアーの報告をしてもらう。(編集委員 坂成美保)

ニューヨーク公演の「曽根崎心中」(撮影・小川知子)

【9月26日】夜の便で東京・羽田空港を出発。ベニヤ板による大道具の背景画ではなく、スクリーンに映像を投影する背景を採用したので、船便による搬送の必要はなく、演者・スタッフ総勢28人が人形のかしらや衣装、スクリーンなどを入れたスーツケースを1人2個ずつ機内に持ち込んだ。

【9月28日】ロサンゼルスのリトルトーキョーにある劇場「アラタニ・シアター」(約880席)公演。演目は「曽根崎心中・天神森てんじんのもりの段」「伊達娘恋緋鹿子だてむすめこいのひがのこ」でチケットは完売だった。公演の目玉で、アニメ映像との融合を試みた「曽根崎心中」では、スタジオジブリ作品で知られる男鹿おが和雄が手がけた背景映像がスクリーンに投影された瞬間、客席からため息が漏れる。文楽では通常行わないカーテンコールを実施。客席はスタンディング・オベーションに沸いた。

アニメーションの背景で火の玉が揺れる(撮影・小川知子)

前日は、隣接の日米文化会館で100人の参加者を集めての交流会。人形や浄瑠璃のパフォーマンスを披露し、地元のパペット劇団とも交流した。

ロサンゼルスの日米文化会館では演者との交流会も開催された

【10月1日】フェアフィールド大学内ホールへ。ロサンゼルス公演では修正点も見つかった。「曽根崎心中」の恋人同士が来世で結ばれることを誓い合うシリアスな場面で笑いが起きたため、英語字幕の表現を変える。

英語字幕付きで上演されたニューヨーク公演の「曽根崎心中」(撮影・小川知子)

【10月3~5日】いよいよ演劇の本場ニューヨーク。目の肥えた観客が多いだけに演者、スタッフも緊張して臨む。国連本部に近いジャパン・ソサエティー内の劇場は満席。雑誌「ニューヨーカー」には〈私たちは精巧な分業を見る。体と魂、動き、音、言葉が演者の間で分担される〉と分析した劇評が掲載された。

ニューヨーク公演の会場となったジャパン・ソサエティー。ギャラリーでは人形や衣装の展示も行われた

神田課長は「長期日程だったが、背景映像の活用で道具類が減り、移動はスムーズだった。国立劇場が閉場し、東京に拠点劇場がない現状では、海外ツアーの経験を国内にも応用できる」と話している。

劇場 街の文化拠点に

国立劇場を運営する日本芸術文化振興会の切替浩子理事=写真=の話「東京の国立劇場は建て替えのため閉場中だが、ワシントン公演に同行し、都市の中で劇場が果たす役割を再認識した。劇場が街の中心、文化拠点として機能していることが来場者の様子から伝わってきた。演者による交流会では、人形はもちろん、太夫、三味線が演奏する義太夫節の世界も体感し、文楽が三業による高度な芸術であること、深遠で端正な日本文化の粋が詰まっていることを感じていただけたのではないか」

(2024年11月27日付 読売新聞夕刊より)

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